ウェールズの芸術と民族の歴史に魅せられて|Wales Now Vol.33

発行日:2018. 1. 5

ウェールズのリアルタイムな情報を隔週でお届けします。



“粘土は生き物なので、毎日手をかけてあげる必要があるんです”


Ewenny Pottery8代目当主 ケイトリン・ジェンキンス(Caitlin Jenkins)さん(左)。陶器作りはお父さん(右)に教わった。

伝記の世界に迷い込んだかのような風景が広がる南ウェールズ。ここに1610年から陶器を焼き続ける、現存するウェールズ最古の窯元があります。その名はエウェニー・ポッテリ―(Ewenny Pottery)。この度、「職人たちのいる処」による日本輸入が始まります。前編に続き、後編はEwenny Pottery8代目当主のケイトリン・ジェンキンス(Caitlin Jenkins)さんにお話を伺います。


ー 自己紹介をお願いします。
Ewennyで陶器を作り続けているジェンキンス家の8代目当主です。陶器作りは父から学びました。そうやって私たちは昔からこの土地で、世代から世代へと技術を伝承してきました。仕事の他には、絵を描いたり版画を作ったり、クリエイティブな事が好きです。あとは子育て。7歳になる双子の息子がいるんですが、ここでの彼らとの生活はとても幸せです。毎日てんやわんやですけど(笑)。

ー Ewenny Potteryの歴史を教えてください。
Ewenny Potteryがこの土地にあるのは、ここの粘土のおかげです。氷河期に蓄積された良質の粘土や釉薬の材料が手に入り、石灰岩と石炭も豊富だったので、それで窯を作ったーー私たちはそう聞いています。この辺りにはかつて、いくつもの窯元があったそうです。しかし、産業革命によってスズなど他の材質の食器が作られるようになるにつれ、その数は減少し、今ではもう2つしか残っていないですね。

ー Ewenny Potteryの歴史の中で、何か特別なエピソードはありますか。
1800年代後期に、あるロンドンに住むデザイナーであり起業家の方が、どこかで私たちの陶器を見かけ、訪ねてきてくれたことがあります。彼はウィリアム・モリスに代表されるアーツ・アンド・クラフツ運動の賛同者だったそうですが、彼がデザインした陶器をEwennyの陶芸家に製作依頼し、その作品のいくつかがロイヤル・ウエディングの記念の品として献上されたそうなんです。そういえば、ちょうど30年くらい前、日本の皇太子様もここを訪れてくださったことがありますよ。今の天皇陛下かしらね。

ー ウェールズ最古の窯元として、陶器作りにかける想いとは?
私たちの製品はすべて手作りで、日常生活の中で使いやすい物を作りたいと思っています。形はシンプルで伝統的に、そして何よりも品質を大切にしています。いくつ作れるかよりも、どんな物を作れるか、デザインをよくするにはどうすればいいか、今の作業の改善点はどこか、といったことがいつも頭にあります。父と私との2人だけの小さな工房なので、新しいアイデアもすぐに試せますし、小さなビジネスを持つことは美しいと感じます。何より、Ewenny Potteryは古くからこの土地にあり、それは私たちだけのものでなく、ここに住む人々のものでもあるという、その意識が確かな伝統の継承と仕事の質へのこだわりに繋がっています。

ー 作品の生産数やメインの顧客は?
年間いくつ作るかといった厳密な決まりは無く、例えば店舗でお皿がたくさん売れたら、お皿をもっと作って、といった感じで需要に応じて製作しています。特に忙しいのは、夏ですね。夏休みにはこの辺りに住んでいる親戚に会いに来る方々や、観光客の方々で賑わいます。通販は行っていませんが、地元の人はもちろんのこと、海外からのお客さんにも、私たちの陶器を気に入ったと言ってもらえるのは嬉しいですね。こんな風に幸いにして、年間を通じて忙しくしています(笑)。何より、粘土は生き物なので、毎日手をかけてあげる必要があるんです。

ー Ewenny Potteryの陶器の魅力を教えてください。
歴代の当主がそれぞれ独自のスタイルを持っていましたが、その中に共通するのが、非常に柔らかい赤粘土を使い、つや出し薬をかけて仕上げる、というシンプルで伝統的なスタイルです。これは今日の私たちの製品にも受け継がれています。釉薬を何度も塗り重ね、それらが窯の中で溶け合うことにより美しい模様を描き、つや出し薬がガラスの様な光沢を表面に加えます。これらの工程をひとつひとつ手作りで行うので、それぞれが世界に一つだけの固有のアイデンティティを持ちます。

ー 今まで通販も輸出もしていなかったのに、なぜ日本と取引をすることになったのですか?
(紹介者の)Davidのおかげで「職人たちのいる処」の彼らと繋がりができたことは、とても素敵な機会だと思ったからです。新しいことを始めようとしている人、陶器に対して深い愛情を持っている人たちと一緒に、輸出を始めてみようと思ったんです。やはり、自分が好きな人たちと働くのが一番ですから。

「職人たちのいる処」チーフデザインマネージャーの重本祐樹さんと。

ー 日本の読者にメッセージをお願いします。
日本の焼き物文化について、そして日本の方々がそうした文化や工芸品をとても大切にしていることは、よく聞き及んでいます。そうした方々に私どもの陶器を使っていただけることを、とても光栄に思います。

Ewenny Pottery: http://ewennypottery.com/
職人たちのいる処(日本代理店): http://www.house-of-craftsmen.net/


“日本とウェールズの芸術の面での関係を強化するために、史上初の貴重な企画を準備中です”


英国ウェールズ国立博物館代表責任者 デイビッド・アンダーソン(David Anderson)さん

日本で企画展「ウェールズ国立美術館所蔵 ターナーからモネへ」が好評開催中です。この度、静岡市美術館におけるオープニング・セレモニーのために、英国ウェールズ7つの国立博物館全ての代表責任者であるデイビッド・アンダーソン(David Anderson)氏が来日しました。観光名所でもある各所の魅力を伺いました。

ー 自己紹介をお願いします。
私はアイルランド出身で、スコットランド系アイルランド人です。最初にイングランドに渡り、スコットランドの大学で学び、最終的にウェールズに落ち着きました。連合王国全土を制覇したキャリアを持っていることになりますね(笑)。

ファミリーヒストリーを辿ると、最古の先祖はオックス・マン(斧の戦士)だったようです。日本でいえば侍や戦士でしょうか。私の体格を見ていただけば、想像できるでしょう? というのも、私は幼い頃から、ずっとラグビーの選手でした。でも、膝を痛めてしまいましたから、今は音楽などを楽しんでいます。

妻と、カーディフ大学でジャーナリズムを学び現エジンバラ大学教授の長女、シンガーソングライターの次女、そして息子という家族構成です。

National Museum Cardiff

ー ケルト文化圏の各地域の違いや共通点とは?
ウェールズ、スコットランド、アイルランドには文化の共通点が多く、各コミュニティの結びつきが強いです。私はスコットランド民謡やアイルランド民謡も好きですが、ウェールズの伝統音楽は独特の美しい調べと魅力にあふれていますね。特にウェールズ語の歌は幻想的で、本当に感動します。

ー 現在は、ウェールズ7つの国立博物館全体の館長でいらっしゃるのですね。
はい、その通りです。厳密にはナント・ガルーに位置するウェールズの芸術品のコレクションセンターもあるので、こちらも入れて8つの博物館を楽しんでいただけたら嬉しいです。8カ所は北ウェールズ、南ウェールズにわかれており、私は英国では珍しいことに車の運転はしないのですが、ウェールズ国内の出張はそれほど大変ではありません。電車やバスの公共交通機関と徒歩で充分周れるのです。どうしてもアクセスがないところはタクシーを使ったりします。

ー 北ウェールズへの観光旅行に組み合わせたい、おすすめの博物館を教えてください。
大自然の中で絶景スポットをダイレクトに楽しむなら、スランベリスにある「国立スレート博物館」がおすすめです。私が英国で一番美しいと思う山、スノードン山がすぐ隣に見えるんですよ。歴史的情緒あふれるバンガーの町もすぐ近くにあります。またバンガー大学にはウェールズ国立博物館関連施設のアートセンターもありますよ。

ー 南ウェールズにはたくさんの博物館が集中していますが、ぞれぞれの特徴は?

セント・ファガン歴史・民族博物館

カーディフの中心部の「ウェールズ国立博物館」はもちろん、バスや車で15分ほどで行ける森の中の「セント・ファガン歴史・民族博物館」は、最近のリノベーションでさらに素晴らしく変身しましたよ。

ウェールズの歴史を学ぶなら、ブレナヴォンの世界遺産にも認定されている「ビッグ・ピット国立炭鉱博物館」も絶対見逃さないでいただきたいですね。炭鉱跡の地底を探検しますが、実際に訪れると感動しますよ。産業と海洋の歴史を学べる、スウォンジーの「国立ウォーターフロント博物館」や、西ウェールズのカマーゼンシャ―の「国立ウール博物館」もおすすめです。

それから「国立ローマ博物館」も歴史上重要なスポットです。ローマ人が侵攻してきたとき、英国の中でもとにかくウェールズが難攻不落の地だったんです。ウェールズ最大のローマ時代の遺跡、イスカ(ISCA)遺跡がある町、カエルリオンにありますが、中世の時代には「アーサー王の円卓の騎士にまつわる土地」としてよく知られていました。

ー 今回で既に4回目のご来日とのことですが、これからの日本との関わりについて教えてください。

ビッグ・ピット国立炭鉱博物館
©VisitBritain/Visit Wales Image Centre

2018年6月より、カーディフの「ウェールズ国立博物館」で、日本と大変ゆかりの深い企画展が始まります。日本とは、17世紀初頭から関係が継続していますが、芸術の面での関係を強化するために、史上初の貴重な内容の企画になると思います。詳細はまだオフレコなので、時期がきたらお話ししますね。

日本はその繊細で正確な文化、古い伝統を重んじる姿勢、すべてに関してクオリティが高いですね。そしてウェールズと共通しますが、古くからその土地を開き国を作り上げてきたので、皆が深く国を愛していますよね。私は日本が大好きでして、絶対にまた来ます。今度は妻を連れてこないと! 特に2019年はラグビーW杯が日本で開催されますので、元ラグビー選手としては絶対にこの時期に日本へ来たいですね。開催期間中に、私の講演を企画していただけないでしょうか(笑)。

National Museums of Wales: ttp://www.visitwales.com/things-to-do/attractions/museums-galleries/museums/national-museums-list (英語)

「ウェールズ国立美術館所蔵 ターナーからモネへ」開催場所と会期
 2017年4月1日-5月28日 広島県立美術館(終了しました)
 2017年6月7日-7月23日 愛媛県美術館(終了しました)
 2017年7月29日-9月10日 熊本県立美術館(終了しました)
 2017年9月23日-11月12日 岡崎市美術博物館(終了しました)
 2017年11月23日-2018年1月28日 静岡市美術館(開催中)
 2018年4月10日-6月10日 福井県立美術館(開催予定)


ウェールズの魅力PR動画コンテストが開催中、締切は1月31日

ウェールズの魅力を伝える動画コンテスト「Wales PR Video Competition “Play a Part”」が開催中です。「ウェールズの伝説」というテーマに沿って、あなたならではの表現で作成したオリジナル動画を募集。優秀作にはウェールズへの短期留学&旅行や、ウェールズの特産品詰め合わせが贈呈されます。2018年1月31日(水)締切。

応募資格、応募方法や詳細は下記リンクをご覧ください。

ウェールズ PR 動画コンテスト「Wales PR Video Competition “Play a Part”」

\ウェールズで人工黒トリュフの栽培が成功/

 ウェールズで世界の三大珍味と言われる黒トリュフの人工栽培が成功しました。英国内では初めてで、今後、レストランなどでの流通も検討されています。

編集後記

ビッグ・ピット国立炭鉱博物館は夏に訪れましたが、地底の寒さに凍えそうに。ウェールズを底から支え続けた、炭鉱夫たちの重労働を想いました。ぜひ各博物館で、ウェールズの文化を体感してください。

次号は1月25日に発行予定です。お楽しみに!

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