深まる芸術文化の交流が促す相互理解|
Wales Now Vol.76

発行日:2020. 04. 07

ウェールズのリアルタイムな情報を隔週でお届けします。


“演劇通じて相互交流や相互理解の拡充を”


ウェールズ語と英語によるバイリンガルでのパフォーマンスを中心に活動する演劇ユニット「インヴェルティーゴ・シアター・カンパニー」を主宰するステファン・ドネリーさん。自らも脚本を手掛けた「マイボディウェルシュ」を上演するため来日したドネリー氏に、その演劇活動などについてお話をお聞かせいただきました。

ー 今回の来日目的を教えていただけますか。
私自身がアーティスティック・ディレクターも務めるインヴェルティーゴ・シアター・カンパニーによる「マイボディウェルシュ」を上演することが主な目的でしたけれども、新型コロナウィルスの感染拡大による影響で当初の予定通りに上演することは叶いませんでした。

ー どのような形での上演を予定されていたのでしょうか。
もともと、大東文化大学でウェールズ語を教えていらっしゃる小池剛史教授が授業をされている様子を撮影したビデオ映像を拝見して、先生の授業を受けている学生たちが流暢なウェールズ語を話しているのを見て驚いたことがきっかけで、私の方から小池教授に日本での「マイボディウェルシュ」の公演について提案させていただいたという経緯もあり、大東文化大学のホールで上演する予定でした。また、「マイボディウェルシュ」の上演だけでなく、ワークショップや講演会なども同時に開催する計画だったのですが、新型コロナウィルスの感染拡大を防止するため、大東文化大学でのイベントについては、大学側の判断で中止されました。

ー 色々と準備もされてきていらっしゃったわけでしょうから、本当に残念でしたね。
来日に向けては2年間をかけて準備を進め、「マイボディウェルシュ」の日本語字幕付きビデオを制作したり、実際に日本で上演するために多くの皆さんから御協力をいただいていたので、当初の予定通り上演できなかったことは残念でした。また、小池教授が代表幹事を務めていらっしゃる日本カムリ学会(日本ウェールズ学会)と日本ウェールズ協会との共催による「英国ウェールズフェスタ」での「マイボディウェルシュ」公演会も中止となってしまいましたが、「セント・デイヴィッドデイ」を祝った日本ウェールズ協会のイベント会場で「マイボディウェルシュ」を披露することができました。小さなパブで少人数ではありましたけれども、日本人観客の皆さんの前でパフォーマンスできたことは良かったと思っています。小池教授によるパワーポイントを使ったレクチャーも行われ、「マイボディウェルシュ」への理解を深めていただくこともできました。

ー 「マイボディウェルシュ」という作品について、ご説明いただけますか。
14歳の少年が井戸の底で見つけた骸骨の秘密を探るストーリーにウェールズの多くの伝承を織り交ぜた詩的スリラーとも言うべき一人芝居で、私も脚本を手掛けています。インヴェルティーゴ・シアター・カンパニーが2017年から上演してきており、今回の日本ウェールズ協会によるイベントのように小さな会場で、キャストやスタッフだけでなく観客の皆さんにも加わっていただいて、全員のチームワークによって完成させていくような作品です。ウェールズの文化に関心がある皆さんやウェールズ語に興味を持っている皆さんなどには、それぞれの関心や興味を深めていただく機会を提供することもできると思っています。

ー ご自身のプロフィールも教えていただけますか。
北ウェールズのアングルシー島で生まれ、育ちました。ロンドンのギルドホール・ミュージック・アンド・ドラマスクールで演劇を学び、卒業後は、2012年に自らが主宰する形でインヴェルティーゴ・シアター・カンパニーを立ち上げ、ウェールズ語と英語によるバイリンガルでの演劇を中心に活動してきています。脚本や演出を手掛けるだけでなく、自分自身も俳優として活動してきています。

ー 俳優としては、主にどのような活動をされてきているのでしょうか。
舞台での演技だけでなく映画にも出演していますが、最近では、ロンドンのグローブ座でシェークスピア劇の7作品を上演する2019年の年間を通じたプロジェクトにも参画して、「リチャード三世」などの作品に出演しました。このグローブ座でのプロジェクトは今年1月に終わったばかりですけれども、このプロジェクトで演出を担当したショーン・ホームズ氏は、今年初めに東京芸術劇場で上演されたサイモン・スティーブンス氏の作品『FORTUNE』でも演出を手掛けています。

ー 脚本家・演出家でもいらっしゃるわけですが、俳優として舞台で演技されることについては、どのように考えていらっしゃいますか。
観客との関係性が最も重要であると思っていますから、その関係性を体現できる舞台での演技は大切だと考えていますが、劇場だけに限らず、演劇を行える場や空間の創出ということもインヴェルティーゴ・シアター・カンパニーによる活動の大きなテーマとなっています。特に、ロンドンのグローブ座は、1階の土間アリーナにいる数百人もの観客とインタラクティブな形でダイレクトにコンタクトできますし、屋根がないため降雨などの予期しない事態も発生するので、とてもスリリングで興味深い劇場だと思っています。また、パフォーマンスを通じて観客のリアクションを感じたり、上演後にチームの仲間やスタッフとディスカッションすることも重要です。小さい劇場やパブなどの会場で上演後に聞かせてもらう観客の感想や新聞をはじめ媒体での批評も、自分の活動を通じて求めている表現の延長線にあるものと考えています。

ー なぜ、俳優になろうと思われたのですか。
子どもの頃から両親や両親の友人など大人の前で演技を披露するのが好きでした。また、地域の小さな劇場で演劇を見たり、クリスマス時期にパントマイムショーを楽しんだり、そういう経験を重ねているうちに、演じるという行為を通じて様々な人間になれることに大きな興味を覚えるようになりました。また、劇場という空間が生み出す「忘我」とか「恍惚」といった感覚も、私にとっては非常に印象的で魅力的なもので、俳優になりたいという思いを強めてくれたように思います。

ー 今回が初めての来日ということですが、日本については、どのような印象をお持ちですか。
小さい頃から、日本のアニメや漫画に接したり、演劇を学ぶ中で蜷川幸雄氏の演出によるシェークスピア劇などを見たりしてきましたから、日本については、そのユニークな文化や演劇メソッドに対して大きな関心を持ってきました。実は、先日、歌舞伎座で坂東玉三郎さんの舞踊「羽衣」も鑑賞したのですが、能楽の作品を題材にした幻想的な舞台には本当に感銘を受けました。今回の来日で、小池教授をはじめ日本ウェールズ協会の皆さんなど、ウェールズの歴史や文化を熟知している方々もいらっしゃることを知りましたし、日本で昨年開催されたラグビーワールドカップを通じて、ウェールズの知名度が高くなると同時に、ウェールズへの関心や興味も強まっているようですから、自分の専門分野である演劇を通じて、ウェールズと日本の間の相互交流や相互理解のさらなる拡充に貢献していくことができればと考えています。

ー どうも、ありがとうございました。

|NEWS|
富士フィルムのAI技術やシステムを活用
ウェールズでの医療イノベーションへ期待

富士フィルムは今年2月、ライフサイエンスハブウェールズ(LSHW)が開催した医療技術展示会「インダストリーテクノロジーデイ」で、超軽量移動型デジタルX線撮影装置“FDR nano”のプロダクトプレビューを行いました。
この展示会は、ウェールズの臨床医などを対象に最先端の医療技術に触れる機会を提供するもので、富士フィルムが展示した同社独自のAI技術(ディープラーニング・アルゴリズム)を駆使する“FDR nano”の実機には強い関心が示されました。
英国では、慢性的な放射線医師不足に起因する画像診断の遅延が問題となっており、“FDR nano”によって迅速な鮮明画像の提供とAI技術に基づく異常所見の解析の実現を通じて、救急や夜間診療などでの診断効率化が期待されています。
NHS(国民保険サービス)ウェールズでは、富士フィルムの医療用画像管理システム(PACS)をウェールズ全域で導入することを決定しており、“FDR nano”の新たなAI技術の普及に向けて、ウェールズの医療機関などで実際の臨床における世界初のデモンストレーションを富士フィルムと行う予定です。
富士フィルムUKアイルランドのエイドリアン・ウォーラーGMは、「この新たな技術により、患者の看護や診療の改善と同時に、放射線医療における診察の効率化がもたらされる」と強調しています。
LSHWは2014年に設立されたウェールズにおける医療サービスの向上を目的とする団体で、NHSと医療機関や関連企業などの連携促進を通じて、デジタルヘルスなどの医療イノベーションに取り組んでいます。

|NEWS|
ウェールズのアーティストによる動画作品
アートNPO“BEPPU PROJECT”がネットで公開

大分県別府市で活動を展開するアートNPOの“BEPPU PROJECT”は、今年2月から3月にかけて開催した「アーティスト・イン・レジデンス」プログラム“KASHIMA”で創作活動を行ったウェールズのアーティストであるフレイヤ・ドゥーリーさんの動画作品をインターネットで公開しました。

“KASHIMA 2019 BEPPU ARTIST IN RESIDENCE EXHIBITION, Freya Dooley”

 別府の温泉文化に息づく湯治のための宿泊形態である「貸間」に由来するプログラムでは、アーティストが一定期間にわたって別府に滞在し、町や地域の人々との交流を通じて、様々なインスピレーションを受けながら作品を制作します。
 ドゥーリーさんは、2月初めから3月中旬まで別府の古民家に滞在して、創作活動を行いました。

▼フレイヤ・ドゥーリーさんへのインタビューはこちら
“別府での生活体験・創作活動を将来に生かす”

▼BEPPU PROJECT・山出淳也代表理事へのインタビューはこちら
“ウェールズの美しさや魅力への理解深める手伝いを”

編集後記

脚本や演出も手掛ける俳優のステファン・ドネリー氏が、自ら主宰する演劇ユニット「インヴェルディーゴ・シアター・カンパニー」のオリジナル作品「マイウェルシュボディ」を上演するために来日しました。新型コロナウィルスの感染拡大による影響で、当初予定されていた形での上演は実現できなかったものの、ウェールズの歴史や文化について知識の豊富な皆さんを対象に小規模ながらパフォーマンスを行う一方、自らも歌舞伎座で鑑賞した舞踊「羽衣」に感銘を受けるなど、芸術文化を通じた交流により相互理解が深まることへの期待を感じさせています。

次号は2020年4月15日に発行予定です。お楽しみに!

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