温泉文化が育む地域間交流の新たな芽|
Wales Now Vol.75

発行日:2020. 03. 20

ウェールズのリアルタイムな情報を隔週でお届けします。


“別府での生活体験・創作活動を将来に生かす”


2008年から大分県別府市で継続開催されている「アーティスト・イン・レジデンス」プログラム“KASHIMA”に、ウェールズから招聘されたアーティストのフレイヤ・ドゥーリーさん。別府の温泉文化に息づく湯治のための宿泊形態である「貸間」に由来するプログラムでは、アーティストが一定期間にわたって別府に滞在し、町や地域の人々との交流を通じて、様々なインスピレーションを受けながら作品制作と展示、トークイベントなどを行います。2月初めから3月中旬まで別府に滞在して創作活動を行ったドゥーリーさんにお話を伺いました。

ー 最初に、ご自身のプロフィールをお聞かせいただけますか。
私は1989年にイングランドのグロスターシャー州で生まれ、カーディフ・メトロポリタン大学のアート&デザイン学部でファインアートを専攻するため、2008年にカーディフに来ました。それ以来、12年にわたってカーディフに住んでいます。2011年に大学を卒業し、アーティストとして活動を続けてきました。

ー 主にどういった創作分野で活動されてきたのでしょうか。
異なる時間や場所をつなぎ合わせる映像制作、音声や環境音のループによるサウンドトラックづくり、文章作成など、様々なメディアを組み合わせて作品を制作してきました。そのモチーフは、私自身の体験であったり、神話や文学からの引用であったりしますが、基本的な創作活動のアプローチとしては、人の精神面における経験や公的・私的に人はいかに生きていくかを問いかける「物語」に焦点を当ててきています。人間の身体と周辺環境の関係性を制作のテーマにしてきていますから、平凡な日常と自然界の要素を組み合わせる作品を中心に、それぞれの文脈の中で状況に応じた創作活動を行ってきました。

ー 来日されるのは大きな決断だったのではないかと思いますけれども、“KASHIMA”プログラムに参加されることを決心された理由を教えていただけますか。
単に日本を訪問するということではなく、一定期間にわたって滞在し、創作活動を行うことができるのは貴重な機会だろうと思いました。

ー 実際に、別府で暮らしながら、しかも、伝統的な日本家屋で生活してみて、どんな風に感じられましたか。
いわゆる古民家だったので、寒かったです(笑)。実は、来日する前に日本に関する書籍などを読んだりして、ある程度のイメージは持っていたのですが、もし、東京に行っていたら状況はかなり違っていたかもしれませんけれども、別府という町は落ち着いた静かな雰囲気で、精神的にもリラックスできました。古民家という日本ならではの生活空間も、想像していたよりも快適に過ごせたように思います。

ー これまでの創作活動と今回の“KASHIMA”プログラムでの創作活動を比べて、大きな違いなどはありましたでしょうか。
さきほど、色々な文脈の中で状況に応じた創作活動を行ってきたと言いましたけれども、今回の“KASHIMA”プログラムでの創作活動は、別府での全く初めて体験することばかりの日常生活や温泉という特徴的な環境は非常に刺激的でしたから、意識するとしないとに関わらず、私自身にとって非常にユニークな創作活動だったと思います。また、私は日本語ができませんから、通訳の方とも色々と相談させていただき、その中で日本語の構造や日本語で表現することの難しさも体験できましたから、そうした創作プロセスというのは、別府に住んで“KASHIMA”プロジェクトというスキームの中で行った創作活動でなければ、決して経験できなかったはずです。

ー 今回の経験は、今後の創作活動にどのように生かしていけるとお考えになりますか。
今回の創作活動では、別府で生活したことも含めて、様々な情報や経験がインプットされ、自分の中に多くのことが蓄積されたと思っていますし、それは、今後の創作活動において、様々なアイデアに姿を変えて、私の作品に反映されていくことになるだろうと考えています。滞在期間は1カ月ちょっとでしたから、実際にインプットされたものが直ちに作品としてアウトプットできたわけではありませんし、発表のされ方自体も限定的な形になってしまいましたけれども、ウェールズに戻った後、これからの創作活動に今回の経験が生かされるでしょうから、私自身も楽しみにしています。また、今回の滞在期間中に地元のアーティストをはじめ、色々な人たちと交流をさせていただき、そうした皆さんとの友情を深めることもできました。これからも友情を大切に育んでいきたいと思いますし、将来にわたって別府を繰り返し訪問することができたらとも考えています。

ー ウェールズと日本との間における芸術交流にも貢献していくことができるわけですね。
そういうふうに出来たら、嬉しいと思います。また、ウェールズに戻ったら、他のアーティストたちにも外国で創作活動を行うことが極めて貴重な体験となることや、アーティストとして国際交流に参画することの素晴らしさを伝えていきたいと考えています。

ー 今回の“KASHIMA”プログラムでは、新型コロナウィルスの感染拡大による影響で、当初予定されていた形での展覧会も中止を余儀なくされたようで、残念でした。
“KASHIMA 2019 BEPPU ARTIST IN RESIDENCE 滞在成果展”の一般公開は中止されましたが、参加者を限定した非公式な形ですけれども鑑賞会は開催されました。また、鑑賞会の様子は撮影チームによって収録が行われ、インターネットで配信される予定ですから、より広範に多くの皆さんに創作活動の成果をご覧いただけることになります。インターネットでの配信を通じて、創作活動の露出機会が拡大するだけでなく、“KASHIMA”プログラム自体や主催団体であるアートNPOの“BEPPU PROJECT”による活動もアピールできるようになるのではないかと思っています。

ー どうも、ありがとうございました。

|NEWS|
「セント・デイヴィッドデイ」でイベント開催
日本ウェールズ協会、ワン・マン・パフォーマンスも


日本ウェールズ協会(St. David's Society Japan)は2月29日、「セント・デイヴィッドデイ(St. David's Day)」のイベントを東京・赤坂のパブで開催しました。
ウェールズ料理のコースなどを楽しんだイベントでは、One man performance on stage(ワン・マン・パフォーマンス)「マイ・ボディ・ウェルシュ」の公演も行われています。
キリスト教の文化圏には「守護聖人」という思想があり、現世でキリストに従って忠実に教えを実行し、天国では人々の祈りを神に取り次いでくれる人と教会によって公に認められているのが守護聖人です。ウェールズの守護聖人である聖デイヴィッドはケルト系教会の聖人で、3月1日の「セント・デイヴィッドデイ」は、ウェールズ国内だけでなく、世界中のウェールズ人が祝う日となっています。

「セント・デイヴィッドデイ」のお祝いでは、リーク(西洋ネギ)と黄水仙の花を身に付けますが、黄水仙とともにウェールズの国章となっているリークについては、守護聖人の聖デイヴィッドがアングロサクソン人との戦闘を前に、味方と敵を見分けるため、リークを帽子につけるようブリトン人に助言したという伝説も語り継がれてきました。

深谷市でも栽培が開始された西洋ネギ

痩せた土地でも育つリークは値段も安く、かつて厳しい労働に従事したウェールズの炭鉱夫には欠かせない食材だったと伝えられており、ウェールズの人々は現在も、ウェールズ名物の様々なネギ料理を楽しんでいます。
日本でも、農業の6次産業化を目指す埼玉県深谷市で昨年春から、西洋ネギ「深谷リーキ」の本格的な栽培が始まりました。名産の「深谷ネギ」に比べて大きさや重さが3倍近い「深谷リーキ」は、ネギ農家の栽培ノウハウと豊かな土壌を持つ深谷の環境により栽培が可能となったもので、新たな特産品として注目されています。
深谷市では、既に「THE・リーキそば深谷」などのメニューも開発されていますが、「深谷リーキ」の販売拡大を通じて、ウェールズの代表的な郷土料理であるラムと西洋ネギを使ったウェールズ風シチュー「カウル」などへの関心が高まることも期待されるところです。

|NEWS|
5月にニューポートで“CYBERUK 2020”を開催
サイバーセキュリティのフラッグシップイベント

カーディフ、ウェールズに次ぐウェールズで三番目の大都市であるニューポートで5月19日と20日の両日、英国政府によるサイバーセキュリティ政策のフラッグシップイベントと位置づけられる“CYBERUK 2020”が開催されます。
ナショナルサイバーセキュリティセンターが主催する“CYBERUK 2020”は、官民の双方からセイバーセキュリティ分野での世界的な第一人者などが参加し、最新の技術やソリューションなどの情報交換を通じて、サイバーセキュリティの未来を切り開くイベントとして注目されています。
“CYBERUK 2020”には2000人以上の参加が見込まれており、英国のサイバーセキュリティコミュニティにおける最も権威あるイベントとして、サイバー安全保障の分野で世界をリードするウェールズの存在感を示すものとしても期待を集めています。

編集後記

ラグビーワールドカップが開幕した昨年9月から東京オリンピック・パラリンピックが開催される今年9月まで、2つの世界的祭典が日本で行われる好機に、日英交流年「UK in JAPAN 2019-2020」が実施されています。その一環として、別府の古民家で約1カ月半にわたって創作活動を行ったアーティストのフレイヤ・ドゥーリーさんは、芸術分野でのウェールズと別府との地域間交流に寄せる熱い思いを語ってくれました。フレイヤさんによる今後の活躍が大いに楽しみです。

次号は2020年3月31日に発行予定です。お楽しみに!

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