芸術文化をウェールズと日本の架け橋に|
Wales Now Vol.74

発行日:2020. 02. 03

ウェールズのリアルタイムな情報を隔週でお届けします。


“音楽と映画を通じウェールズ語とウェールズ文化を発信”


ウェールズ語でサイケデリック・ポップを演奏するグループとして知られるバンド“Yr Ods”のメンバーで、ソロでも音楽活動を行っているミュージシャンであり、自ら脚本を手掛ける映画監督としても活躍するグリフ・リンチ氏。現在、ドキュメンタリーの短編映画『Takeshi』の制作にも取り組んでおり、来日した同氏に、自身の芸術活動や日本の印象などについて、お話をうかがいました。

ー まず、ご自身のプロフィールを教えていただけますか。
登山鉄道でも知られる北ウェールズのスノードン山に近いバンガーという町で育ちました。自分自身としては、ウェールズで育ったことによって、現在の人格が形成されたのだろうと考えています。日本の方には馴染みがないかもしれませんけれども、Gorkeys Zygotic MynciやSuper Furry Animalsといったウェールズ語で歌うウェールズのバンドによる音楽を聴いてきましたから、自分でもウェールズ語でサイケデリックロックを演奏するバンド“Yr Ods”を結成することになりました。“Yr Ods”は、英語にすると“The Odds”という訳になると思います。現在、私が住んでいるカーディフにも活気に溢れた音楽シーンが存在していて、僕らのようなサイケデリックロックのバンドだけでなく、フォークバンドや電子音楽バンドなど、様々なバンドが音楽活動を展開しています。カーディフで開催される音楽フェスの“Swn”は毎年、大変な賑わいぶりです。通常、音楽シーンと言う時には、ミュージシャンの演奏する音楽ジャンルを指すことが多いと思いますけれども、ウェールズでは、ウェールズ語で歌うこと自体が音楽シーンであり、それによって、ウェールズの音楽のユニークさや多様性がもたらされているような気がします。

ー 今回の来日目的をお聞かせいただけますか。
現在、ドキュメンタリーの短編映画『Takeshi』という作品を制作しており、今回の来日は、その撮影を行うことが最大の目的です。もちろん、せっかく日本に来ているわけですから、東京都内にあるデジタル作品が展示されているギャラリーなども積極的に見て回っています。

ー その短編映画『Takeshi』という作品についても、ご説明いただけますか。
大東文化大学でウェールズ語を教えていらっしゃる小池剛史准教授を紹介するドキュメンタリーです。小池先生は、大学生の時に、中部ウェールズのランピターという町に留学され、町の人々の大半がウェールズ語を日常的に話しているランピターの環境もあり、大学で学んだウェールズ語を生活の中でも使いながら言葉を身に付けられたと聞いています。日本では最も有名なウェールズ語の研究者として知られているそうです。今回は、大学で学生たちにウェールズ語を教えている小池先生の授業の様子などを撮影させていただくつもりです。この短編映画を通じて、「小池剛史」という人物に徹底的に迫り、ウェールズ語やウェールズ文化に対する小池先生の信じられないほどの並外れた情熱を描き出すことが出来ればと考えています。このドキュメンタリーの短編映画は、フィルム・ウェールズや公益団体の基金などの支援により、BBCウェールズとのパートナーシップを通じて制作されているものです。

ー 音楽活動も映画製作も、ウェールズ語やウェールズ文化への強い拘りがベースにあるのでしょうか。
そう言えるかもしれません。私の創り出す音楽や映画を通じて、ウェールズの人々にウェールズ語やウェールズ文化への愛着や誇りを思い起こしてもらうことができればという気持ちがあるのは確かです。

ー ご自身も日常的にウェールズ語を話されているのでしょうか。
そうです。家庭では父も母もウェールズ語を使っていましたので、子どもの頃からずっとウェールズ語を話してきましたし、「母国語は何ですか」と聞かれたとしたら、即座に「ウェールズ語です」と答えると思います。夢もウェールズ語で見ています。現在、人口が約300万人のウェールズで、ウェールズ語を話しているのは75万人程度と言われており、ウェールズ政府は、その数を100万人まで増やすことを目指していますから、私の音楽や映画は、そうした動きにも貢献していると言えるかもしれません。

ー 日本に対しては、どんな印象をお持ちでしょうか。
日本も歴史や伝統を大切にする国だと感じていますので、その日本でウェールズ語やウェールズ文化を紹介して、日本の皆さんに理解を深めていただくことは、とても重要だろうと考えています。伝統文化と最新の科学技術が共存している日本のような先進国で、小池先生のようにコアなウェールズファンを増やしていくことができれば、ウェールズと日本の関係もより堅固なものとなり、強い絆で結ばれるようになっていくと期待しています。日本で開催されたラグビーワールドカップ(RWC)で、ウェールズ代表チームがベスト4に残る活躍をしてくれたことは、日本でウェールズ語やウェールズ文化をアピールする上でも大きな追い風となっていくのではないかと考えています。

ー どうも、ありがとうございました。

大東文化大学の小池剛史准教授を囲むウェールズ・アーツ・インターナショナルのハーヴ代表(左)とリンチ氏(右)

大東文化大学の小池剛史准教授を囲む
ウェールズ・アーツ・インターナショナルのハーヴ代表(左)とリンチ氏(右)


“日本でのビジネスやコラボレーションに向けて努力”


ウェールズ・アーツ・インターナショナル
エリネド・ハーヴ代表

日本にウェールズを紹介する文化プログラムを準備してきたウェールズ・アーツ・インターナショナルでは、日本でのラグビーワールドカップ(RWC)の開催と前後して、日本各地で様々な行事を開催しました。それぞれの行事では、ウェールズの地域共同体に根差してウェールズの各地域で育まれてきたウェールズ文化を、音楽や美術など芸術に焦点を当てて紹介しました。

まず、ウェールズ・アーツ・インターナショナルが展開している「カロン・ラン」キャンペーンは、ウェールズのラグビー代表チームを応援するため、ウェールズラグビーの非公式国歌である「カロン・ラン」をウェールズや世界中の人々に歌ってもらい、その歌声を一つに集めるもので、RWC期間中に東京・新宿のサザンテラスに設置したウェールズドームでは、カタカナの字幕で「カロン・ラン」を歌える場を提供しました。
ウェールズドームでは、歌から試食会まで様々なイベントが行わましたが、その中で、大東文化大学の小池剛史先生によるウェールズ語レッスンも実施されています。

また、ナショナル・ダンス・カンパニー・ウェールズは、大分や横浜などで「ラグビー、私にとって大切なもの」というRWCに合わせて特別に制作されたプログラムのパフォーマンスを行いました。
カーディフで開かれた「アートと健康」をテーマにしたイベントが東京でも開催され、ウェールズと日本の両国の専門家による実践や意見交換、将来にわたる国際コラボレーションを模索する場も、ブリティッシュカウンシルとの協働により用意されました。

RWCでウェールズ代表チームの試合も行われた大分では、ウェールズと大分の友好交流を記念して、ウェールズを拠点に活躍するガラス工芸家やセラミック・アーティストなど12人の作品を紹介するデザイン展が大分県立美術館(OPAM)で開催されました。
ウェールズでも、ウェールズ国立美術館・博物館の主催により「ユネスコ世界記憶遺産」に登録された山本作兵衛氏の炭坑画展がビックピット国立石炭博物館で開催されたほか、2018年に開催され大好評だった「絆」展を経て、ウェールズ国立美術館・博物館と日本の国立近代美術館とのパートナーシップも続いています。

今回の東京への文化団派遣は、ウェールズ政府による日本へのトレードミッション派遣に伴うもので、参加団体やアーティストを含め、プログラムに参画した関係者の全てが、日本でのビジネス展開や相互交流の促進、芸術分野におけるコラボレーションの推進に向けて、努力を続けていきます。

 

|NEWS|
バンガー大学で5G研究センターが公式稼働へ
ウェールズをネット技術の世界的リーダーに

モバイル通信がいよいよ本格的に5G(第5世代移動通信システム)時代に移行する2020年を迎え、ウェールズでは、バンガー大学サイエンスパークにある5G研究に特化した「デジタルシグナルプロセス(DSP)センター」が公式に稼働を開始します。
ウェールズを科学技術とインターネットの世界的リーダーに押し上げることが期待されるDSPセンターは、ブロードバンドの回線速度向上などに取り組んでいるバンガー大学の教授や研究者によって運営され、携帯電話やWiFiハブ、デジタルマニュファクチャリングなどデジタル通信システムを中心に高度な研究が行われる予定です。
ウェールズ政府から400万ポンドに及ぶEU基金の支援を受けるDSPセンターは、処理能力の向上やサービスの改善などを図るため、既存の5Gネットワークにおけるファイバー技術の活用策を探ることになります。
バンガー大学サイエンスパークのDSPセンターでは、EU基金による支援期間中、20人以上の研究者がプロジェクトに参加する見通しで、BTや富士通をはじめ、TWIやファイバースピード、コムテックなどウェールズの主要なデジタル企業との間で協力協定も調印される計画です。
DSPセンターは、英国では初めての5Gに特化した研究センターで、長期にわたるプロジェクトでは、100人以上の雇用機会が生まれるほか、より大きな経済変革という恩恵も期待されるところです。

|NEWS|
“伝説のロック”ジョーンズ選手に注目
2月1日からシックスネーションズが開幕

日本列島を沸かせたラグビーワールドカップ(RWC)の興奮も冷め切らない中、ヨーロッパのラグビー強豪国6カ国が熱戦を繰り広げるシックスネーションズが2月1日に開幕します。
昨年のシックスネーションズで5戦全勝のグランドスラムを達成したウェールズは、開幕戦でイタリアと対戦することになっており、RWCでもベスト4進出を果たした代表チームの昨年に続く活躍が期待されるところです。
RWCで予選プールから決勝トーナメントまでの7試合すべてに出場し、テストマッチでのキャップ数を世界歴代2位の143まで伸ばしたものの、代表引退も噂されていた“闘将”アランウィン・ジョーンズ主将は、来年のブリティッシュ・アンド・アイリッシュ・ライオンズのメンバー入りを目指すとも伝えられていることから、今回のシックスネーションズでどんなプレーを見せてくれるのか、注目されます。
ジョーンズ主将は、昨年のRWC終了後、公式サイトで「大会を彩った7人の傑出したプレーヤー」にも選ばれており、“伝説のロック”によるいぶし銀のプレーは、今回のシックスネーションズでも最大の見どころの一つとなりそうです。

編集後記

音楽や映画、絵画、彫刻、舞踊など様々な芸術分野で独自の文化を発信するウェールズ。連合王国を構成する一つの国として、そのアイデンティティを最も体現しているのがウェールズ語であり、ウェールズ語こそがウェールズ文化の屋台骨であるのかもしれません。ラグビーワールドカップでのウェールズ代表チームの活躍を追い風にウェールズの存在感が増している日本でも、ウェールズ語とウェールズ文化への理解が深まり、相互の絆がより強固なものになっていきそうです。

次号は2020年02月15日に発行予定です。お楽しみに!

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