城郭から食肉まで一気に広がる文化交流の輪|
Wales Now Vol.72

発行日:2019. 12. 10

ウェールズのリアルタイムな情報を隔週でお届けします。


“「ウェルシュラム」にインパクトプレーヤーの期待”


消費者主導による日本での羊肉文化の定着とどこでも羊肉料理が楽しめる環境の構築を目指す羊齧(ひつじかじり)協会。2012年の創立以来、羊食文化を通じた消費者コミュニティの創造につながる活動を展開してきている同協会の菊池一弘代表に、今年から日本への輸入が解禁されたウェルシュラムへの期待や羊肉文化の展望などを語っていただきました。

ー 羊齧協会創立の背景や経緯について、教えていただけますか。
私の父は岩手県遠野市の出身なのですが、遠野市というのは、1930年代から「ジンギスカン」という形で羊肉が食されていた土地柄で、市内のスーパー店頭には当たり前のように羊肉が並んでいて、「ジンギスカン」は遠野に住む人たちにとっては極めて身近な料理となっています。「ジンギスカン」だけでなく、フライパンで炒めたり、ホットプレートで焼いたり、羊肉は“普通の肉”の扱いでした。その後、私は北京外国語大学という中国の大学に留学し、ウィグル族というイスラム系の民族の居住区の隣に住んでいたので、個人的には22歳くらいまで自分の周りには羊肉が当たり前に存在している環境でした。ところが、23歳の時に東京へ来てから、ある時、スーパーで羊肉が売られていないことに気づき、周囲に訊いてみたら「普通は羊肉なんて食べない」と言われて、強烈な衝撃を受けたという原体験を持っています。

ー いわゆる「カルチャーショック」という感じでしょうか。
そうです。スーパーでフツーに羊肉が売られていて、皆がフツーに羊肉を食べるものという僕の認識の方が「フツーではない」ということを知り、本当にびっくりしました。その後は、元留学生の仲間とか現地に駐在していた友人などを中心に、2~3カ月に一度、羊の肉を食べられる店を見つけたら、皆で食べに行こうという地道な活動を続けるようになりました。それが、2000年代の初めくらいの話です。

ー そうした活動が次第に広がっていったわけですか。
2012年に初めて、仲間内ではない外部の人が「羊肉を食べる会をやっているそうだけど、私たちは食べたことがないから連れてって」と参加して、「こんなに美味しいものとは思わなかった」と驚いてくれたのです。「それなら、もっと活動を広げてみよう」という話になり、より多くの皆さんに活動してもらうようになったのが、羊齧協会のスタートでした。

ー 羊齧協会としては、どのような活動を展開されてきているのでしょうか。
消費者主導で何か面白い展開にできないかということで動き出してからは、活動の柱は3つあります。
1つ目は、月に1度か2度、レストランイベントという形で、少ないと30人くらい、多いと200人くらいが集まり、レストランで羊肉を食べるという会員向けイベントを行っています。
2つ目は、メディアなどに対するPR。
3つ目は、毎年11月に開催している羊フェスタという一般向けに公開している大型イベントです。今年で6回目となりましたが、大型イベントを開催することによって、消費者やメディア、店舗、流通などの各方面に「羊肉を扱うとこんなに人が来るんだ」「こんなに盛り上がるんだ」ということをアピールしてきています。

ー 活動に対する世の中の反応とかリアクションは、最初の頃に比べてどのように変わってきていますか。
当初は「変な肉を食べている集団」という見方をされていましたが、今は「美味しい羊肉を食べられるところがあったら教えてよ」という反応に変わってきました。大型イベントなども、最初は一部のマニアックな人たちが集まっているという印象でしたが、今は、美味しい食べ物の好きな人たちに沢山来てもらえるようになりました。羊フェスタには、流通業界や食材輸入業者の皆さん、飲食店の関係者やシェフの皆さん、国内の生産者の皆さんなど、様々な方々に集まっていただいています。毎月のイベントにも、スーパーのバイヤーさんが来たり、レストランのシェフの方、生産者の方と組んだ企画も展開したりしていますから、「羊」をキーワードに関係方面の皆さんが大勢集まるようになっています。日本の食肉業界としても、豚・牛・鶏などの需要が頭打ち傾向を示していますから、新たな市場や需要が見込める羊肉に対する注目が高まっているようです。スーパーや飲食店にとっても、今までは「珍しい」だけだった羊肉が一般化していって、販売機会や消費機会が増える展開は歓迎されるものだろうと思います。

ー 羊肉をめぐる状況が変化してきている中で、今年1月には英国からの食肉輸入が再開され、「世界的にも極上肉」とも言われる“ウェルシュラム”が日本市場に入ってきたことについては、どのようにお考えになりますか。
これまで日本で消費されている羊肉の99%近くが輸入された羊肉で、その約6割がオーストラリア、約3割がニュージーランド、残りの1割がその他というような割合でした。もちろん、世界各国で羊肉が生産されていることは知っていましたし、例えば、中東に行った人が「中東の羊は美味しかった」とか、モンゴルから帰ってきた人が「モンゴルの羊も美味しかった」とか、「英国で食べた羊のロースは旨かった」とか、色々な話を聞いてきています。でも、やはり、実際に日本へ入ってきた羊肉を食べてみないと分からなかったわけです。牛肉の場合なら、アンガスビーフとかオージービーフとかUSビーフとか、産地によって違うという意識は一般的にもあると思いますが、「羊肉は結局、羊肉」という印象は否めず、食肉文化的には未発達という感じだったかもしれません。ところが、ここ数年でアイスランドからの羊肉の輸入が増えたり、フランスからも羊肉が入ってきたり、ウェールズからも「ウェルシュラム」が入ってきたりして、「羊肉にも産地の違いがあるんだ」ということで、消費者や飲食店の間に選択肢の幅が広がってきたわけです。そうした中にあって、先日の羊フェスタで7カ国の羊肉を食べ比べするというブースを用意してアンケートをとってみたところ、ウェールズのラム肉が「旨味(うまみ)」で最も高い評価を頂き、“ウェルシュラム”の可能性を感じさせる結果となりました。

ー 具体的には、どういったことでしょうか。
同じ部位のラムを塩味だけで焼いて食べてもらったのですが、“ウェルシュラム”については、飲食関係者やシェフの方などから「今までのラムとはベクトルが違う」という評価をいただいています。ちょっと抽象的な言い方なのですが、要するに「味の系統が今までのラムとはちょっと違う」という印象です。それは、恐らく“ウェルシュラム”の最大の特徴ということになるわけで、日本市場でのプロモーションを行う際に、この特徴を上手く表現する言葉やストーリーを作り上げていくことが出来れば、十分に可能性を秘めているということなんだろうと思っています。日本市場でのラム肉消費については、既に、2015年から2018年までの4年間に輸入量が1.4倍に拡大しており、まだ、母数が小さいだけにノビシロは大きいものがあるわけです。今の時点では、羊肉については、産地がどうとかいう話よりも、輸入量を着実に伸ばしていくことが産地の国々にとっても最重要課題になると思っています。とは言え、ウェールズ産のラム肉は徐々に取り扱う店も増えてきているので、非常にポジティブに捉えていますし、日本における羊肉市場全体にとってもインパクトプレーヤー的な役割を担えるのではないかと考えています。今回のラグビーワールドカップ(RWC)でのウェールズ代表チームの大活躍によって「ウェールズ」そのものの知名度も一気に高まってきていますから、“ウェルシュラム”の販促にとっても最大のチャンスと言えると思いますので、ウェールズの関係者の皆さんには、是非、頑張っていただきたいと期待しています。

ー どうも、ありがとうございました。

~ウェールズ貿易使節団・連続インタビュー~


“日本は大きな可能性を秘めた重要な市場”


空調・換気設備機器の空調機・熱交換器コイルなどを設計・製造する専門メーカーとして、英国や欧州各国をはじめ世界的な事業展開を行っているローダンUK。OEMによる空調機器・熱交換器の設計・製作やメンテナンス改修など、高度な専門性に裏付けられた高品質な製品や効率の高い熱交換率を実現する高度な技術により、国際的にも評価を得ている同社のスチュアート・ランカスター社長に、事業概要や日本市場の展望などをお聞かせいただきました。

ー ローダンUKの歴史や事業概要などについて、ご説明いただけますか。
親会社のローダンは1950年代に創業された企業で、暖房・換気・空調・冷凍などの「空気調和(HVAC&R)」と言われる分野で実績を重ねてきており、ローダンUKはその英国法人として2004年から南ウェールズを生産拠点に空調機や熱交換器コイルなどの設計・製造・販売を行ってきています。HVAC&R分野の専門メーカーとして、大手メーカーには出来ないキメ細かな対応や柔軟な工期設定、高い技術に裏付けされた品質などで高い評価をいただいています。

ー ローダンUKの製品は、どのような場所で利用されているのでしょうか。
ロンドン中心部に近年建てられている著名なビルの空調設備でローダンUKの熱交換器コイルが使われているのをはじめ、オフロードで利用される自動車などの運輸部門、軍の備品など、家庭用ではない業務用のHVAC&Rに特化した専門メーカーとして事業を展開しています。一般的にも良く知られている場所としては、ロンドンの新金融街とも言われる「カナリー・ワーフ」の高層ビル群があります。ロンドン東部のテムズ川沿いでウォーターフロントの再開発地域として、欧州最大の超高層ビル街に生まれ変わった「カナリー・ワーフ」は、英国の摩天楼として新たな景観を創り出していますが、ウェールズで培われたローダンUKの技術と高品質の製品も、こうした最先端の都市づくりを支えているのです。日本の「関西国際空港旅客ターミナルビル」を手掛けたことでも知られるミラノ出身のイタリア人建築家・レンゾ・ピアノが設計した300メートルを超える欧州で最も高いビル「ザ・シャード」でも、ローダンUKの技術と製品が利用されています。

ー 今回の来日目的を教えていただけますか。
ウェールズからの貿易使節団の一員として来日しましたが、ローダンUKとしても、個人としても、日本を訪れるのは今回が初めてです。2004年に南ウェールズで創業を開始した当初は、英国市場向けの販売だけを行っていましたが、その後は、欧州各国や米国・カナダの北米地域、さらに、アジア地域にも輸出先を拡大してきています。英国による欧州連合(EU)離脱という動きも視野に入れつつ、さらに、国際的な事業展開の強化を目指しているローダンUKにとって、大きな可能性を秘めた日本は極めて重要な市場になるだろうと考えています。

ー 日本市場での可能性を、どのように展望されていますか。
既に説明させていただいたように、ビルの空調設備やオフロード車をはじめとする運輸部門などがローダンUKの中心的な事業分野となっていますが、MRIスキャナや外科手術用レーザーなどの特殊医療機器の中には、ローダンUKのコイル製品がなければ、製造できないものもありますから、日本市場では、様々な分野での新規顧客の獲得や需要開発を進めていきたいと考えています。専門メーカーとしてのキメ細かな対応や柔軟な工期設定、高い技術に裏付けされた品質などがローダンUKの強みですから、付加価値の高いニッチェな市場をはじめ、世界的に見てもハイエンドなマーケットとして知られる日本では、多くの可能性を見出していけるのではないかと期待しています。もちろん、日本にもローダンUKと競合する高度な専門メーカーが存在することは認識していますけれども、今回の来日を通じて将来に向けた道筋を探り出し、今後は頻繁に日本を訪れて着実な市場開拓に取り組んでいく方針です。

ー どうも、ありがとうございました。

|NEWS|
相互交流の拡大へ刻まれた確かな一歩
姫路城でコンウィ城との姉妹城提携調印式


コンウィ城と姫路城の姉妹城提携調印式が10月29日、兵庫県姫路市の姫路城・西の丸で行われ、コンウィ市のゴロニー・エドワード市長と姫路市の清元秀泰市長が姉妹上提携の締結書に署名しました。
エドワード市長は調印式で「ウェールズと日本の距離や言語の違いを乗り越えて、相互の交流を促進していきたい」と挨拶し、ともに世界文化遺産に登録されているコンウィ城と姫路城の姉妹城提携に基づく長期的な友好関係の構築に意欲を示しています。
また、清元市長も、「長い歴史を重ねてきた姫路城とコンウィ城は、幾多の困難を乗り越えて地域のシンボルとなった」と語り、お互いの歴史に新たなページを加えることになった2つの古城による姉妹城提携の意義を強調しました。
調印式では、ウェールズの国歌とともに、ラグビーワールドカップ(RWC)2019日本大会でのウェールズ代表チームの活躍でお馴染みとなった応援歌「カロラン・ラン」も披露され、式典の雰囲気を盛り上げました。
今回のRWC期間中、姫路市では、ウェールズ代表チームを応援するため、予選プールのジョージア戦と準決勝の南アフリカ戦の2試合で姫路城でのパブリックビューイングが実施されるなど、ウェールズ代表チーム「レッドドラゴンズ」の認知度が一気に高まり、姉妹城提携に伴う交流ムードも広がりを見せています。

姫路市の清元市長がコンウィを訪問

姫路市では、姫路城とコンウィ城の姉妹城提携を同市の市制施行130周年記念事業と位置付けており、姫路城で姉妹城提携調印式が行われてから約1週間後の11月7日には、清元市長と姫路市文化国際交流財団の岡田兼明副理事長がコンウィ市を訪問し、相互理解を深めるとともに今後の友好交流促進に向けて意見交換を行いました。
コンウィ城を訪れた清元市長は、姫路城とコンウィ城の姉妹城提携について「将来にわたって続くであろう友好関係の始まりにすぎない」と相互交流の強化へ決意を示す一方、「姫路市民にウェールズの素晴らしさとウェールズの歴史をしっかりと伝えたい」語っています。
コンウィ城は13世紀にイングランド国王のエドワード1世によって築城が始まり、外壁より内壁が高い構造で防衛のための建造物としては完璧な城と言われており、8つの大円塔とともに独特の景観を見せています。
姫路城も14世紀に南北朝時代の武将である赤松貞範が本格的な城を築いた歴史まで遡り、白鷺城の異名を持つ景観のシンボルである大天守は17世紀初めに造られました。
ウェールズと日本を象徴する古城同士の姉妹城提携は、RWCという追い風にも恵まれ、今後の観光交流や文化交流、経済交流の促進・拡大に向けて大きな一歩を踏み出しています。

編集後記

日本への輸入が再開される前から「極上ラム肉」としての評価が強調されてきた“ウェルシュラム”について、ラム愛好家の集まりである羊齧協会の代表が「今までのラムとはベクトルが違う」という表現で、その独自性を評価しています。RWCでのウェールズ代表による活躍を受けて、日本でのウェールズへの関心が高まる中、日本の食肉市場における“ウェルシュラム”人気も急上昇していくことが期待されます。

次号は2019年12月16日に発行予定です。お楽しみに!

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