教育・文化交流をウェールズと日本の懸け橋に|
Wales Now Vol.69

発行日:2019. 09. 04

ウェールズのリアルタイムな情報を隔週でお届けします。


“雄大な自然に育まれる穏やかで温かな人々”


国際大学連合(IFU)理事長とダブリン大学トリニティカレッジ・英国国立バンガー大学日本研究所のディレクターを務める砂田さんは、日本の高校や大学からの短期研修の受け入れ・サポートなどを通じて、日本とウェールズの間における若年世代の交流を支えています。短期・長期のコースを合わせると、日本から年間に約150人の生徒や学生が訪れるウェールズ北西部のバンガー市を拠点に活動している砂田氏にお話をお聞きしました。

ー 現在のお仕事について、ご説明ください。
バンガー大学日本研究所では、ダブリン大学トリニティカレッジへ入学するためのトリニティ・ファウンデーション・プログラムを実施しています。このプログラムは、留学生のためにカリキュラムを構成したトリニティカレッジ独自の教養課程(ファウンデーション・コース)で、1年間の教養課程の大半はバンガーで行われており、アイルランドとウェールズでの学習を通じて、国際意識をより一層高めながら学べます。プログラム終了後は、希望する専門課程に進むこともできます。また、このプログラムは、ダブリン大学トリニティカレッジだけでなく、英国の国立セント・アンドリュース大学、国立西イングランド大学、国立デ・モントフォート大学、バンガー大学、米国の私立グリーンビル大学の教養課程も兼ねています。この6つの大学が連携しているIFUは、各大学への留学を希望する生徒のための入学試験を大学直属の機関として行っており、合格者はそれぞれの大学の入学資格を得た上で、教養課程を履修する形となります。英国とアイルランドは教育水準が非常に高いことで知られていますが、大学や高等教育機関に入るための競争は厳しく、大学専門課程における留学生の受け入れには消極的であることもあり、日本の高校を卒業して直ぐに入学することは極めて難しいものと考えられてきました。国際的知名度・学術的水準がトップレベルにあるダブリン大学トリニティカレッジも、そうした大学の一つでしたが、その入学を身近なものにするプログラムとして誕生したのが、トリニティ・ファウンデーション・プログラムです。神戸市にIFUの事務所を設置して、日本で提携している高校や大学に向けた留学説明や募集、提携校と保護者へのサポートなども行っています。

ー ウェールズとの出会いやご縁について、教えていただけますか。

20年ほど前に、バンガー大学で勉強していた妹を訪ねてバンガー市に来た時に、バンガー大学日本研究所の北中寿所長と出会ったのが、今の仕事に連なる様々な出来事のきっかけとなりました。当時、たまたま、2001年と2003年に日本大使館が支援する「日本祭」が開催され、茶道と華道の師範資格を持っていた私に、北中所長が「お茶とお華の手ほどきをしてみませんか」と声をかけてくださり、「日本祭」が終わった後も、バンガー大学日本研究所の日本語英語養成コースで日本文化を教える仕事を続けることになったのです。日本語英語養成コースというのは、外国人に英語で日本語を教えるコースで、このコースには主に日本の学生が参加していましたから、その後の仕事の道筋を開いてくれたとも言えます。日本語英語養成コースは2005年で閉講となりましたが、日本文化を教えていた時に在英日本大使館からの支援により、現地で材料を調達して、ウェールズの大工さんに茶室をつくっていただき、大切な思い出となっています。その茶室では、駐英日本大使やバンガー大学の学長、バンガー市の市長をはじめ、お世話になった多くの方々を茶会に招待させていただきました。さきほども説明した通り、バンガー大学日本研究所では、主に日本の高校を卒業したばかりの学生が海外の大学へ進学するための教養課程コースであるトリニティ・ファウンデーション・プログラムも運営しており、北中元所長が退任された後、私がマネージメントを引き継がせていただいています。

ー 長い間、ウェールズにお住まいになられて、どんな印象や感想をお持ちですか。
英国の中でも、独特の大自然と伝統文化を誇るのがウェールズです。山々や原野は、ダイナミックで神聖な雰囲気にあふれています。ひとことで言うと、「自然に守られている」場所だと思います。みんなが必死になって、「この美しい自然を守っている」という感じではなく、底知れぬ雄大な自然が穏やかで温かい人々を作っているのではないかという気がします。自らを「ウェールズ人」と称する人々は、英語のほかにウェールズ語を話し、独自の文化、詩、歌を誇りとしています。ケルト神話の水ノ神「ドラゴン」はウェールズの守り神であり、悠久の昔からの水の流れが、今も変わらずに大地を潤しているのです。ウェールズに“Hiraeth(ヒーライス)”という言葉があり、翻訳をするのが難しい言葉だと聞いていますけれども、「望郷の念」「愛しい地へ帰りたい」という気持ちを表す時に使うようです。私がウェールズを離れることがあるならが、きっと“Hiraeth”を強く感じることになるんだろうなと思っています。

スノードニア国立公園

ー “Wales Now”読者の方々をはじめ、日本の皆さんに伝えたいウェールズの魅力をお聞かせください。
何と言っても、時の流れがゆったりとしていて、人々は温かく、自然も素晴らしいということです。年間に多くの生徒や学生を受け入れていますが、バンガーの市を挙げて温かくサポートしていただいています。一番若い生徒は15歳ですけれども、保護者の方にも「安心して子どもを預けていただけます」と胸を張って説明しています。2015年にバンガー市の市長が来日されましたが、今年10月にはコンウィ市市長と市議会の議員の皆さんが日本での提携校を訪問して、ウェールズの魅力などをお話していただく予定です。生徒や学生が勉強に打ち込める最高の場所だと考えていますので、一人でも多くの日本の若者にウェールズから世界へはばたいて欲しいと願っています。私自身もウェールズに来た当初は、日本のように様々なことがスムーズに進まず、「日本だったら、こうなのに…」と愚痴を言うこともよくありましたけれども、ある時、上司から「別の国なんだから、日本と同じ物差しは通用しない」とたしなめられて、それ以降は、全てを受け容れられるようになりました。今は、日本の悪口もウェールズの悪口も、耳にすると庇いたくなるくらいで、ウェールズと日本は、私の父と母のような関係かもしれません。また、ウェールズ人はとても情が深くて、何かしてもらうとその恩を忘れず、何年も何年も感謝されるので、「この方は亡くなるまで感謝し続けるんだろうな」と思うような出来事がいくつもありました。それこそが、ウェールズ人の魅力であり、チャーミングさを感じるところです。

|NEWS|
ウェールズのバンガー大学で2週間の研修旅行を実施
神奈川県のアレセイア湘南高等学校、現地での交流も

神奈川県茅ケ崎市のアレセイア湘南高等学校は6月30日から7月13日までの日程で、ウェールズの英国国立バンガー大学での英国研修旅行を実施しました。
この研修旅行は、同大学日本研究所の現地プログラム研修を通じて、英語力の強化やホームステイ体験による同世代の若者や現地の人々との交流、フィールドトリップを通じた自然体験や歴史学習、班別行動による自主性の向上、グローバルな視点での考え方の醸成、などを目指すものです。
同校では15年ほど前からバンガーでの短期英国研修を実施しており、カリキュラムの一部となっている研修は毎年6月末から2週間ほどの日程で行われ、毎年40人前後の生徒が参加。同研究所のトリニティ・ファウンデーション・プログラムを経て、同大学に留学する生徒もいます。
今回の研修旅行では、7月8日と9日の2日間にわたり、コンウィ市と同研究所による文化交流プログラムにも参加しました。
8日は、地元の学校を訪問して、現地生徒の案内による学校見学を行うとともに、科学や数学、ウェールズ語の授業なども体験。また、研修旅行に参加した生徒たちも、日本の伝統文化を紹介するアクティビティとして折り紙体験や神奈川県湘南エリアの紹介、日本の城と英国の城を比較するプレゼンテーションなどを行っています。
9日には、同校と地元の学校の生徒らがコンウィ市議会を訪問。同市の市長が歓迎の挨拶を行い、市議会のローブ着衣体験なども楽しみました。さらに、姫路城と姉妹城提携するコンウィ城も見学した同校の生徒は、事前に学習していた地元の学校の生徒たちから説明を受けながら、小グループで城内を回りました。
相互にホストを務めるイベントを通じて同世代の若者たちの交流も深まり、積極的に英語でのコミュニケーションも図られ、生徒間での友好関係も築かれています。

|NEWS|
コンウィ城と姫路城の提携セレモニーでウェールズ国歌
「トリニティ・ヴォーカル・コンソルト」が姫路城で披露

ウェールズの世界文化遺産であるコンウィ城と日本の世界文化遺産である姫路城の姉妹城提携調印セレモニーは10月29日に姫路城で行われる予定ですが、当日のディナーレセプションでは、ウェールズ語の楽曲を中心に演奏活動を行っている「トリニティ・ヴォーカル・コンソルト」がウェールズ国歌を披露する予定です。
アイルランド国立ダブリン大学トリニティカレッジ教養学部と英国国立バンガー大学日本研究所、IFU(国際大学連合)公認のトリニティ・ヴォーカル・コンソルトは、関西を中心に活躍する声楽家・音楽指導者4人で結成されており、両大学機関のある北ウェールズと日本との交流・教育プログラムに貢献する一方、両機関の日本オフィスがある神戸を拠点に活動しています。
古楽・バロック唱法による透明感のあるハーモニーと緻密なアンサンブルに加え、楽曲のアカデミックな研究と解釈に基づく音楽づくりには定評があり、ルネサンス・バロック期の教会音楽から現代曲に至るまで幅広いレパートリーを持っています。
姫路城でのウェールズ国歌の披露は、トリニティ・ヴォーカル・コンソルトを結成したトリニティ・ファウンデーション・プログラムの研究員である林康宏先生とコンウィ市のビル・チャップマン前市長が今年1月に日本で懇談した際に提案されたもので、姫路城に響く美しい歌声が期待されています。

編集後記

たまたま訪れたバンガー市で開催される「日本祭」で茶道と華道の手ほどきをすることになり、それをきっかけに20年にもわたってウェールズに在住し、日本からの短期・長期の留学生を受け入れる仕事を通じて、ウェールズと日本の教育・文化交流に貢献してきたバンガー大学日本文化研究所の砂田恭美所長は、その半生を「出会いと御縁の積み重ね」と振り返っています。その「出会いと御縁」が今、ウェールズと日本をつなぐ確かな懸け橋となり、次代へと連なる新しい局面を開くことも大いに期待されるところです。

次号は2019年9月17日に発行予定です。お楽しみに!

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