日本から世界へ問いかけるウェールズ生まれの映画監督|Wales Now Vol.56

発行日:2019. 1.16

ウェールズのリアルタイムな情報を隔週でお届けします。


“日本で製作した長編映画4作品で国際的に高い評価”


上智大学外国語学部英語学科教授として教鞭をとると同時に、プロデューサー・映画監督・脚本家として活躍するジョン・ウィリアムズ氏。1988年に来日して以来、日本で映画製作活動を続けてきており、2001年に長編第1作となる『いちばん美しい夏』で監督デビューし、ハワイ国際映画祭のグランプリをはじめ各国の国際映画祭で受賞。佐藤浩市と木村多江が主演した第2作『スターフィッシュホテル』(2007年)はルクセンブルグ国際映画祭でグランプリ、佐渡島を舞台にした第3作『佐渡テンペスト』もシカゴ国際映画音楽祭でグランプリを受賞。2018年に公開された最新の長編第4作『審判』でも注目を集めているウィリアムズ教授に、日本との関わりや映画製作などについてお聞きしました。

ー 来日された経緯について、お聞かせいただけますか。
10代の前半にドイツのヴェルナー・ヘルツォーク監督による『アギーレ・神の怒り』(1972年)や黒澤明監督による『デルス・ウザーラ』(1975年)を観て、大変な衝撃を受けました。それまで親しんできていた西部劇や“007”シリーズなどとは全然違う深いメッセージと芸術性を備えていて、深い部分まで理解できていたとは思いませんけれども、その衝撃は非常に大きくて、それ以来、自分自身の将来としては映画監督の道以外には考えられなくなりました。ただ、当時、英国で映画について学べるのは、国立の専門学校がひとつあるだけで、しかも、27歳からしか入学できない仕組みだったため、映画会社に就職して現場で修行することも考えましたが、何しろ、コネがものをいう業界だったので、それも難しい状況だったのです。

ー それで、日本に来て映画製作に関わろうと考えられたのですか。
ケンブリッジ大学で文学を専攻して、とりあえず高校の教師などをしていたのですが、日本の英会話学校で講師を募集している広告が目にとまり、ちょうど、伊丹十三監督作品など独特の世界観を持つ日本映画に興味をひかれていたことや、高校時代の友人が日本人女性と結婚して日本への親近感を持っていたことなどもあり、1988年に来日しました。米国の映画学校に進むための学費を稼ごうというような軽い気持ちだったのですが、日本の映画業界は英国よりも間口が広く、映画製作のための自由な環境も整っていることが分かってきて、1年後には日本で映画を撮り始めました。英語を教えていた名古屋の映画学校で、8ミリで自主製作映画を撮っていた学生たちと親しくなり、一緒に活動しているうちに「日本での映画製作も面白いな」と思うようになって、米国へ行くのは止めました。そのまま、日本に住み続けて、会話学校や大学などで教えるかたわら、気が付けば、長編映画を4本も製作することになっていたわけです。
ー 昨年公開された最新長編作の『審判』は、どういった映画なのでしょうか。
原作は、20世紀初めのチェコの作家であるフランツ・カフカの小説です。今回は、ストーリーはほぼ原作のままで、舞台設定を現在の日本に置き換えました。主人公が30歳の誕生日を迎えた朝、目覚めると理由も告げられずにいきなり逮捕され、裁判が始まるというショッキングな冒頭から始まる不条理な物語です。『審判』自体は、ご存知のように何度も舞台化や映画化の対象となってきている作品ですが、私自身も14歳で初めて読んだ時に、頭の中には既に映画化のイメージが湧いていました。数年前にオーソン・ウェルズの『審判』(1963年)を初めて見たら、想像していたような白黒のシュールな作品でしたが、ある日突然逮捕されるというシンプルなコンセプトながら、「なぜ逮捕されているのか?」「夢なのか? 現実なのか?」も判然としない悪夢のような世界を描く小説は読んだことがなかったので、「いつか映画化したい」と考えてきていたのです。

ー 「自分は何者なのか」という問いかけは、普遍的なものであるだけでなく、同時代的なものでもあるかもしれません。
映画を製作する前に『審判』を読み直して、「撮るなら今しかない」と思いました。そこに描かれている空気感が、今の世界に通じるものがあると感じたのです。例えば、連日のように報道されている英国のEU離脱をめぐるニュースなどを見ていると、私自身がその当否を論じる立場にはありませんけれども、SNSなどの普及でますます多様化したメディアを通じて、一気に拡散される情報は、時にあやふやだったり、全く誤ったものでも、大きな力を持って人々の判断や行動を一つの方向に導いてしまう恐れもあるのではないかと感じてしまいます。それは、英国だけでなく世界全体が直面している問題でもあり、私たちは、大量の情報から取捨選択して自分の行動を決める自由を得ているように見えながらも、実は、“情報の檻”に閉じ込められているのではないか。あるいは、“消費主義”に貫かれた社会のシステム自体が檻なのではないかという気さえします。私は、そこに檻があるなら破って自由になりたい、少なくとも、自分の周りの柵をたたいて、檻に囲まれていないかどうかを確かめたいと考えています。
 ー ご出身は、ウェールズのどちらでいらっしゃいますか。
カーディフとスウォンジーの間に位置する南ウェールズのスラントリサント(Llantrisant)で、1962年に生まれました。小さな町ですけれども、紀元前800年くらいの鉄器時代まで遡る長い歴史を持ち、18〜19世紀には石炭産業で繁栄した時期がありました。

ー ご趣味などを教えてください。
ジャズを鑑賞したり、料理を作ったりするのが趣味です。家ではオスのフェレットを飼っていて、名前は「玉三郎」といいます。

ー どうも、ありがとうございました。


“ウェールズの海産物を「高級食材」として日本市場に訴求”


ロブスターやカニ、ムール貝、サーモン、タラなど、近海から様々な種類の海産物が水揚げされるウェールズでは、海産物の輸出拡大などを通じた漁業の振興を目指す取り組みが進められています。その漁業振興プロジェクトを担うMenter a Busnes社で“Welsh Seafood Cluster”の市場開発プロジェクトマネージャーを務めるキャロライン・ドーソン氏に、プロジェクトの概要や日本市場での展開などについてお話をお聞かせいただきました。

ー “Welsh Seafood Cluster”のプロジェクトについて、ご説明いただけますか。
ウェールズで水揚げされる全ての海産物の市場開発を行うプロジェクトです。ウェールズでは、サーモンやサバ、タラ、ニシンなどの魚類だけでなく、ロブスターやカニなどの甲殻類、ムール貝に代表される貝類など、様々な種類の海産物が水揚げされています。そうしたウェールズの海産物について、海外での認知度向上を図りながら、各国での市場開発を進めて、その消費拡大を実現することを目指そうというのが“Welsh Seafood Cluster”です。

ー 日本での市場開発や需要創出については、どのような考え方をされているのでしょうか。
アジア市場では、既に、ウェールズから中国へ多くの海産物が輸出されていますが、日本ではウェールズの海産物への認知度は決して高くないのが実情です。ただ、昨年秋に来日したウェールズ貿易使節団のメンバーだった水産会社が、日本で取引先となるパートナー企業と契約を交わして、高級食材として知られるブルーロブスターを中心に規模の大きいビジネスを開始しており、今後の市場開発や需要創出も十分に期待される状況となっています。

ー 日本市場では、ウェールズの海産物をどのようにアピールされる方針ですか。
東側を除く三方を海で囲まれたウェールズでは、沿岸部を中心に漁業が行われており、小型船を利用して持続可能な漁法によって海産物が獲られています。持続可能な漁法は、同時に、いわゆる「生産者の顔が見える」形で海産物の安全や安心も担保されるビジネスを可能にしており、海産物のクォリティが高いことが日本市場でのアピールポイントになるのではないかと考えています。製品や商品の品質に対する評価が厳しいことで知られている日本市場では、そうした海産物のクォリティの高さも正当に評価されることになると思いますから、ウェールズの漁業にとっては極めて重要なマーケットとして期待されます。

welsh seafood cluster

 ー ブルーロブスターのような高級食材についても、その可能性は大きいとお考えですか。
日本は、大規模なマスマーケティングによる消費拡大よりも、ハイエンドのニッチな需要にフォーカスしながら、新規市場を開発していくようなマーケティングを行っていくべきではないかと考えています。ブルーロブスターやムール貝などの高級食材が、トップクォリティのプロダクトとして供給され、しかも、どこでどのように漁獲されて、どのような流通経路で日本に卸されるかも明確にできますから、レストランやホテルなどを中心にして、高いクォリティを求める消費者のニーズに応えられる食材として、ウェールズの海産物を訴求できるのではないかと思っています。

ー 「ウェールズ・クォリティ」とも言うべきブランドイメージを構築していくということでしょうか。
そうです。例えば、ムール貝などにしても、いわゆる「天然もの」で養殖されたものではありませんから、ウェールズの海産物のキーワードとして、「ワイルド」や「サステーナブル」「プレミアム」「ハイクォリティ」などを前面に打ち出して、日本市場できちんと理解してもらうことが重要になると考えています。ラムなどの肉類やチーズなどの乳製品なども含めて、「質の高い安全安心なウェールズの食材」というブランドイメージを日本のマーケットで確立できればと思いますし、ウェールズの海産物の特長についても明確なメッセージを伝えられるようにしていかなければなりません。

ー ご自身も、ウェールズのご出身でいらっしゃいますか。
北ウェールズのセント・アサフ(St Asaph)が故郷です。現在は、同じ北ウェールズのナークウィス(Nercwys)という小さな村で、1890年代に建てられた分厚い石造りの家に住んでいます。

ー ご趣味を教えていただけますか。
料理が得意です。自分で言うのもおこがましいですけれども、テレビの料理番組に出たりもしています。

ー どうも、ありがとうございました。

|NEWS|
頑張れ!! ウェールズ代表チーム“レッド・ドラゴンズ”
今年9月、いよいよラグビーワールドカップ日本大会が開幕

写真提供:ラグビーワールドカップ2019組織委員会

新しい年が明けて、ウェールズ代表チーム“レッド・ドラゴンズ”の活躍も期待される「ラグビーワールドカップ2019日本大会」の開幕が、いよいよ8か月後に迫ってきました。
今年は「平成」という時代が終わり、5月には改元を迎えて新しい時代も始まる節目の年ですが、英国が発祥の地であるラグビーはウェールズの国技でもあるあることから、日本で開催される“一生に一度”のラグビーワールドカップで、優勝も視野に入れるウェールズ代表が大会で大暴れすることが今から楽しみです。
1987年の第1回大会以来、ヨーロッパやオセアニアなどのラグビー伝統国で開かれてきたラグビーワールドカップがアジアで開催されるのは、今回が初めてとなります。

前回の2015年イングランド大会では、約247万人がスタジアムに集まり、各国で約40億人もの人々がテレビで観戦し、「世界のスポーツ史上で最大の番狂わせ」と言われた日本が南アフリカを下した熱戦には、ラグビーファンに限らず世界中のスポーツファンが感動したことも記憶に新しいところです。
9月20日に開幕する日本大会では、北海道から九州まで全国12の会場で48試合が行われる予定で、予選リーグをプールDで戦うウェールズ代表チームは、9月23日の豊田スタジアム(愛知県)でのジョージア戦を皮切りに、9月29日の東京スタジアム(東京都)でのオーストラリア戦、10月9日の大分スポーツ公園総合競技場(大分県)でのフィジー戦、10月13日の熊本県民総合運動公園陸上競技場でのウルグアイ戦の4試合を行います。
ウェールズ代表チームの健闘を祈り、決勝トーナメントに進出できるよう、皆さんも一緒に応援しましょう。

ラグビーワールドカップ2019
日本大会公式サイト
https://www.rugbyworldcup.com/

|NEWS|
食品・飲料展示会“TasteWales 2019”を開催
3月20日と21日の2日間、南ウェールズのニューポートで

ウェールズ政府は3月20日と21日の両日、南ウェールズのニューポートにあるリゾートホテル“Celtic Manor Resort”で食品・飲料展示会“TasteWales 2019”を開催します。
2017年にスタートし、今年で3回目を迎えるイベントは、世界各国から数多くのバイヤーが参加。ウェールズの食品・飲料メーカーと一堂に会して、大規模なBtoBの展示商談会が繰り広げられます。
クォリティの高いウェールズの食品や飲料を生産・販売する企業150社がセラーとして集結する展示商談会は、日本市場でも大きな可能性を秘めている新たな商材を見つける絶好の機会となるはずです。
このチャンスを活用していただけるように、日本からも数多くの関係者の皆さんによる参加をお待ちしています。

イベント公式サイト http://www.tastewales.com/en/
イベントについてのお問い合わせ先 wales.inquirybox@gmail.com

編集後記

10代の前半にウェールズで観たクロサワ作品に触発されて映画監督を志し、日本に移り住んでからの30年間に4本の長編を製作して、何れも国際的に高い評価を受けるという奇跡のような文化的クロスオーバーは、監督自身の類まれな才能と卓越した力量がもたらしたものであることは間違いありませんけれども、ウェールズと日本の邂逅が生み出したプラスアルファのパワーも作用しているのかもしれません。ジョン・ウィリアムズ監督による今後の活躍に期待が膨らみます。

次号は2019年1月31日に発行予定です。お楽しみに!

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