四半世紀の歳月が紡いだ北九州とウェールズの固い絆|Wales Now Vol.48

発行日:2018. 9. 20

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“大学間提携が地域を結ぶ国際交流へ拡大”


四半世紀にわたってカーディフ大学との提携を続けている北九州市立大学。その礎を築いた同大学の山崎勇治名誉教授(経済学博士)は、国際交流アドバイザーとしても活躍しています。当初の苦労話や行政・市民も巻き込む大きな地域間交流の輪に広がるまでにいたった経緯などを語っていただきました。

交流25周年でカーディフを訪れ、留学経験者と再会した山崎勇治名誉教授(中央)

石炭を通じ英国資本主義を研究

ー 先生とウェールズのご縁は、そもそも、どういったことだったのでしょうか。

山崎名誉教授のインタビューに応じた
トニー・ベン元産業大臣[1986年]

私の専門が英国の経済と経済史で、研究のテーマをカーディフの石炭に絞り込んだことが、現在にいたるウェールズとのご縁の始まりでした。19世紀の後半にカーディフ港から石炭が世界中に輸出されていくようになるのですが、英国資本主義の歴史を振り返ると、その石炭によって資本主義が成立し、産業革命を支えた石炭で資本主義も発達しますが、石炭というエネルギーが存在していたばかりに、エネルギーの主役がより効率の良い石油に変わってゆく時代に取り残され、資本主義は衰退していきます。その石炭に注目して、資本主義の成立・発展・没落を見てみようというのが私の研究テーマだったのです。ヨーロッパ大陸では、ドイツもフランスもイタリアも、ほとんどの国がイギリスの石炭に依存するという時代があったほとです。

ー それは、いつ頃のことですか。
1870年代くらいからです。産業革命の後、石炭の需要が急速に高まり、英国にはウェールズの石炭や鉄鉱石がありましたから、英国でも鉄鋼生産は盛んだったのですが、やがて、ドイツによる鉄鋼生産の後塵を拝していくようになります。私は、「石炭で栄え、やがて、石炭で滅んだ大英帝国」をテーマに博士論文を書き、ミネルヴァ書房から『石炭で栄え滅んだ大英帝国〜産業革命からサッチャー革命まで』という著書も出版しました。

ー 先生が初めて英国へ行ったのは、いつだったのですか。
1979年にサッチャー政権が誕生した翌年の1980年に、初めて英国へ行きました。その時は、ケンブリッジに1年間いましたが、1984年から1985年まで1年間にわたって続いた炭鉱ストライキが終わった翌年の1986年にもケンブリッジに1年間、それから、トニー・ブレア政権が誕生した翌年の1998年にカーディフに1年間いましたから、英国での研究活動は合計3年間に及んだことになります。

ケンブリッジ大学・マクファーソン学長(左)の推薦状により、炭鉱スト当事者たちと会うことができました

ケンブリッジ大学・マクファーソン学長(左)の推薦状により、炭鉱スト当事者たちと会うことができました

炭鉱研究が大学間提携の契機に

ー 北九州市立大学とカーディフ大学による提携も、先生の研究活動がきっかけだったとお聞きしています。
そうです。少し話が長くなりますけれども、石炭を通じて英国資本主義の成立・発展・没落の歴史を見るのが私の研究テーマだったことは既に説明しましたが、その最後の部分でサッチャー政権が大きく関わっています。サッチャー政権は、英国病とも言われるほど落ち込んでいた英国経済を立て直すために、18万人も炭鉱労働者がいた石炭産業の合理化を大胆に進めました。いわゆるスクラップ&ビルドで、経営状態の良くなかった炭鉱を相次いで整理して、職場を失う炭鉱労働者を雇用するため、製造業の拡大を図るのですが、英国としては金融部門への特化を目指していたため、製造業については、日本企業を誘致することで、その拡大を担ってもらおうとしたのです。当時、1000社もの日本企業を誘致する方針が打ち出され、そのために、日本語教育と日本的経営を学べるような大学改革にも取り組むことになりました。この大学改革に手を挙げたのがカーディフ大学で、私が1986年に2度目の渡英から帰国した直後に、ウェールズの炭鉱での実地踏査などに協力してもらったカーディフ大学の教員から手紙が来て、経済学部をビジネススクールに改編し、日本で学生を受け入れてもらう大学を検討しているから、九州で良い大学を推薦してくれと依頼されました。

イアン・マグレガー石炭庁総裁(当時)にも面談して取材[1986年]

ー そこで、北九州市立大学がカーディフ大学からの学生を受け入れることになったのですか。
いや、その時点で、当時の英国文化センターがピックアップした関東や関西、九州の大学リストの中に、北九州市立大学は入っていませんでした。そこで、学長に状況を報告したところ、「全権を委ねるから、学生受け入れを実現してくれ」と指示を受けることになったのです。リストに名前を連ねていたのは、東大や京大、早稲田、慶応などトップクラスの大学ばかりでしたが、英国側が重視している企業研修ということでは、北九州市が地元に拠点を置く企業と緊密な関係にありますから、北九州市立大学の強みとしてアピールできると思い、そのことを英国側に強調して伝えたところ、リストに載せてもらえるようになりました。

日本を救った「カーディフ炭」

ー 炭鉱研究を通じた先生のネットワークが活かされたわけですね。
しかし、実際に英国から調査団がやってきて、関東や関西の有名大学の立派なキャンパスや研究施設を見学した後、九州の大学も視察に訪れたのですが、地方の小さな大学を見た調査メンバーの落胆ぶりは明らかでした。そこで、北九州市が買い上げた地元企業の立派な迎賓施設(西日本興業倶楽部)に調査団を招いて接待し、私が「カーディフ炭と日露戦争」という話をしたのです。つまり、当時、カロリーが高くて煙の出ないカーディフ炭は、世界各国の海軍が喉から手を出して欲しがっていましたけれども、その確保は容易ではありませんでした。しかし、日本は日英同盟のよしみでカーディフ炭を調達することができたのに対し、ロシアは購入できなかったのです。若松沖の日本海海戦で旧日本海軍がロシアのバルチック艦隊を撃破できた背景には、そういう事情もありましたから、「カーディフ炭こそ、日本を救ったキーストーンだった」と説明したところ、調査団一行は非常に感銘を受けた様子で帰っていきました。

ー 先生の熱意が、調査団の心を動かす結果につながったと…。
いや、まだ、話は終わりません。調査団が帰国した後、大学生協に行って首都圏との物価の違いを表にしてもらい、経済面での暮らしやすさをアピールしたところ、ようやく、日本での学生受け入れ先として九州市立大学が決定したのです。

山崎名誉教授の努力と熱意によりカーディフ大学との提携が実現

25年間で15組を数える国際結婚

ー 北九州市立大学にカーディフ大学からの学生が初めて来たのは、いつだったのですか。
1992年に初めて9人の学生が来ました。狭いキャンパスに金髪の学生がやってきて雰囲気は一気に変わり、学内が非常に元気になりました。英国側が最も求めているのは企業研修と日本語教育センターでしたから、当時は学内に国際交流センターもなかったため、学長が市にかけあって予算を確保し、経済学部の教授だった私も、センター長室へ行って色々な手伝いをしました。その後、カーディフ大学から学生を受け入れるだけでなく、こちらからも交換留学生を送ることになり、双方向での交流に拡大したのです。姉妹大学提携のノウハウも蓄積され、その後、海外の色々な大学と協定を結び、日本一留学生に優しい大学になりました。

ー 北九州市立大学とカーディフ大学の提携は、昨年で25周年を迎えられたことになります。
そうです。来年に日本で開催されるラグビーワールドカップ(RWC)に向けて、ウェールズ代表チームが北九州で事前合宿を行うことになったのも、この四半世紀に及ぶ交流が大きな要因になりました。事前合宿の誘致に当たっては、他都市との競合も激しかったようですが、カーディフ大学との交流で北九市市立大学に留学した学生が、今や、在北九州の英国名誉総領事になっており、大いに尽力してくれました。それから、ウェールズラグビー協会の中にも、やはり、北九州市立大学での交換留学の経験を持つスタッフがいて、彼女も、協会の内部で北九州市を推してくれたようです。25年の間に140人の学生がカーディフ大学から北九州市立大学に留学しましたが、日本での滞在期間は1年に過ぎないのに、日本人を伴侶に選んで国際結婚が実現したカップルは、既に15組近くになっています。在北九州の英国名誉総領事も、奥さんが日本人です。この極めて高い国際結婚の実現比率は、全くの想定外で、本当に素晴らしいことだと思っています。

北九州から広がる国際交流の輪

ー 大学間の提携が、文字通り、血の通った地域間交流にもつながってきているわけですね。
その通りです。地域の皆さんの協力で、留学生一人に一人のお母さん役をお願いしているのですが、昨年は交流10周年を記念してお母さん方もカーディフを訪問しました。現地で「炭坑節」を歌って踊ったら、向こうの皆さんも喜んで輪に入り、期せずして、炭鉱文化の交流イベントといった様相を呈したようです。カーディフでは、炭鉱夫によるストレス解消だったラグビーも「国技」と呼ばれるほどのスポーツとなり、ご存知のように世界的な強豪国の一つとなっていますし、楽団や合唱団などの音楽も炭鉱文化の一環と位置付けられると思います。ラグビーや音楽を通じた地域間における国際的なスポーツ交流や文化交流が、大学レベルや行政レベルだけでなく、市民レベルで拡大していけば、本来の意味での地域間交流が根付いていくのではないでしょうか。日本でのRWC開催をきっかけに、北九州市だけでなく、全国各地でこうした国際交流の輪が広がっていくことを期待しています。

北橋健治・北九州市長を囲む留学生と市民たち

北橋健治・北九州市長を囲む留学生と市民たち

|NEWS|
「ウェルシュ・レアビット」を食べに行こう!!
ローズベーカリーで30日まで“The British Fair 2018”

 東京都内で銀座や丸の内、新宿などに店舗を展開しているローズベーカリーは9月30日まで、英国ゆかりのメニューをアレンジした期間限定商品を販売する“The British Fair 2018”を実施しています。
この“The British Fair”は、駐日英国大使館で展開している英国の食のキャンペーン“Food is GREAT”に賛同するローズベーカリーが2013年から続けているものです。
ウェールズ名物の「ウェルシュ・レアビット」も、期間中に販売される限定商品にラインナップされています。パンにチーズフィリングをのせてトーストしたウェールズ地方の伝統料理である「ウェルシュ・レアビット」は、「こんがりした焼き色が食欲をそそるチーズトースト」として紹介されおり、ローズベーカリーでは、カンパーニュにチェダーチーズや黒ビールなどを使った自家製フィリングをのせて焼き上げています。グリーンサラダとおすすめデリ1種添えで850円(税込み)の一品は、ビールやサイダー(シードル)との相性が抜群といいます。

 ローズベーカリー丸の内で実際に「ウェルシュ・レアビット」を味わった40代の女性は、「カリッと焼きあげられて香ばしく、黒ビールとチェダーチーズのおかげで、普通のチーズトーストよりコクがあり美味しい」と絶賛。飲み物は、エルダーフラワーシロップをソーダで割ったエルダーフラワーソーダが「濃厚なウェルシュ・レアビットの風味を引き立てるのでおすすめ」ということです。

|NEWS|
ペンブルックのホテルが「最も優れたパブ」に
これまでも“ゴージャスなパブ”として様々な受賞歴
 ウェールズの西南端・ペンブルックシャー州のペンブルックにあるホテル“The Stackpole Inn”が、ブリストルに本拠を置く旅行会社のサワデイズによって「ウェールズとイングランド全体で最も優れたパブ」に選ばれました。サワデイズはヨーロッパ各国を中心に、いわゆるニッチェでディープな場所を訪れるツアーを催行する旅行会社ですが、英国内の優れた飲食施設や宿泊施設などを選定して情報発信を行うことでも知られています。

 “The Stackpole Inn”は、ペンブルック海岸国立公園内に位置する小規模ながらも評価の高いホテルで、全国パブ&バー・アワードの“BEST IN OUR COUNTRY”賞を受賞するなど、そのパブは“ゴージャスなパブ”としてこれまでも様々な賞に輝いてきました。サワデイズは今回の選定に際して、“The Stackpole Inn”を「ベスト・オールラウンダー」と多様な魅力を評価。「夢のようなパブ」であり、「離れたくない場所」と絶賛しています。
また、ホテルから少し歩けば、2017年に「世界のベストビーチ」の一つに選ばれたBarafundle Bayもあり、その絶好のロケーションとも併せて、地元の人々からも旅行者からも愛される「パブ」として人気を集め続けることになりそうです。

|NEWS|
“ツーリズムEXPOジャパン2018”でセミナー
「不思議の国 ウェールズ」をテーマに

英国ウェールズ政府は、9月20日から23日までの4日間にわたって東京・有明の東京ビッグサイトで開催される“ツーリズムEXPOジャパン(TEJ)2018”に「不思議の国 ウェールズ・ウェールズ政府」ブースを出展し、会期中には「不思議の国ウェールズ 観光セミナー」も実施します。
TEJ2018でのブース出展ととウェールズ観光セミナーの概要は、次の通りです。

◎ツーリズムEXPOジャパン2018
会場:東京ビッグサイト
期間:2018年9月21日(金)=業界日/22日(土)・23日(日)=一般日
ウェールズ政府ブース:東3ホール・ヨーロッパエリア(ブース I-08)

◎「不思議の国ウェールズ 観光セミナー」
会場:東京ビッグサイト 東4ホール2階・セミナールームNo.7
日時:9月21日15時〜16時(事前登録制ですが、登録されていない場合でも、当日、席があれば入ることができます。
※セミナーの詳細は、ツーリズムプロフェッショナルセミナー全体のホームページ(http://www.t-expo.jp/biz/program/seminarprogram.html)で、9月21日のセミナールーム7〜9の中から「ウェールズの観光セミナー」を選択してください。展示会の入場登録も同時に申し込んでいただく必要があります。また、セミナー会場のマップ(http://www.t-expo.jp/_shared/pdf/180912_TEJ18_seminnermap_.pdf)も、ご確認いただけます。

編集後記

ラグビーワールドカップの日本開催が1年後に迫り、出場する各国代表チームの合宿地や試合開催地となる都市との交流も本格化し始めているようですが、1990年代から続いている大学間の提携をベースとした北九州とカーディフによる濃密な関係は、地域間交流の活性化を目指す全国の自治体にとっても大いに参考になりそうな事例と言えそうです。

次号は9月30日に発行予定です。お楽しみに!

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