長い歴史と豊かな自然に育まれたウェールズの奥深い魅力|Wales Now Vol.43

発行日:2018. 7. 2

ウェールズのリアルタイムな情報を隔週でお届けします。


“日常的に話され、芸術作品も生みだすウェールズ語の魅力”


英国の王室で生まれたと言われる伝統的なキッチンクロスであるティータオルに、リベラルなメッセージを表現してインターネットで販売する「ラディカル・ティータオル」の共同創設者であるルーク・スピアートさん。将来的な日本市場での本格展開も視野に来日したルークさんは、合気道では黒帯の初段という腕前です。「合気道を生んだ国の道場で稽古することこそ来日の最も大きな目的」というルークさんに、ティータオルのビジネスと合気道について語っていただきました。

ルーク・スピアートさん

ルーク・スピアートさん

ー ウェールズのお育ちということですが、ご出身はどちらですか。
生まれたのはロンドンですが、3歳の時にウェールズの首都・カーディフに近いバリーという町に移り、18歳までバリーに住んでいました。ウェールズ育ちなので、ウェールズ語も話すことができます。両親は現在もバリーで暮らしていますけれども、私はイングランドのケンブリッジ大学を卒業した後、21歳の時からロンドンに住んでいます。両親と一緒にラディカル・ティータオルを創設し、インターネットを通じて英国を中心に世界各国でティータオルを販売しています。

ー 日本ではまだ馴染みが薄いティータオルについて、ご説明いただけますか。
その名の通り、冷めないようにティーポットを包んだり、ティーポットやティーカップなどの食器を磨いたり、お茶菓子を載せたり、お茶に関わる使い方をするキッチンクロスの一つです。ランチョンマットとしても使えるので、おしゃれなデザインのものも色々と出てきています。

ー ラディカル・ティータオルは、ユニークなメッセージを表現したデザインで注目されているそうですね。
もともと、共同創設者である私の母が、亡くなった祖母のパートナーに政治的なテーマのバースデープレゼントを考えていた時に、リベラル志向の強かった祖母のパートナーに向けたデザインのティータオルを探したものの、インターネットでもそういう商品は見つからなかったため、自分でそういう製品をつくろうと考え、ラディカル・ティータオルのデザインが生まれました。英国では、婦人参政権が実現して今年がちょうど100年目に当たりますが、婦人参政権をアピールする古いポスターや当時の雑誌の表紙などもデザインとして取り入れたり、女性やマイノリティーの権利獲得に貢献した思想家や活動家、リベラルな政治ムーブメントや政治家なども、ラディカル・ティータオルのモチーフとなっています。

Votes for Women

夫人参政権の実現を訴えるポスターが
モチーフのティータオル

ー マーケットとしての日本の可能性については、どのように考えていらっしゃいますか。
まだ、具体的なビジネス展開の話などは一切ありませんけれども、英国と同じお茶の文化を持つ日本では、ティータオルの需要も少なからずあるのではないかと思いますし、ラディカル・ティータオルのコンセプトについて理解していただける消費者の皆さんも数多くいらっしゃるのではないかと考えています。英国製品あるいはウェールズ製品として、日本市場でティータオルに注目していただける時も来るのではないかと期待しているところです。

ー 今回の来日は、黒帯の初段という腕前の合気道を、日本の道場で稽古することも大きな目的でいらっしゃるとお聞きしました。
そうなんです。28歳の時から南ロンドンにある大きな合気道の道場に通って、稽古を重ねてきています。昨年の5月には初段に昇段して、黒帯を締めることができるようになりました。週に3〜4回は道場に通い、稽古の時間は合わせて4〜5時間くらいです。来日したのは今回が初めてですが、2週間の滞在期間中、早稲田大学の道場に毎日通って、1日2時間半も稽古をしています。

ー 日本の武術としては、柔道の方が世界的にポピュラーなようですが、なぜ、合気道を始めようと思われたのですか。
20代初めの頃に、スキル・ビルディングについての本を読んだのですが、その著者が合気道をやっている人で、合気道の稽古を通じて自らの人生を改善していくこともできるというようなことが書かれていました。合気道の稽古における練習方法や自己鍛錬などにも言及されていて、合気道の根本精神は人生全体に当てはまるのではないかという考え方も紹介されていました。私は政治学専攻の学生でしたから、ディベートやディスカッションには大いに興味があるのですが、相手の力を利用して戦う合気道のアプローチは、ディベートの議論にも応用できるものだろうと考えています。私が通った南ロンドンの道場は、早稲田大学で生まれた富木合気道の流派でしたから、いつか早稲田大学の道場で富木合気道の稽古をして、その根本精神に触れることができたらとずっと憧れていました。

Comrade Che tea towel

キューバ革命の英雄である
チェ・ゲバラもモチーフに

ー 実際に早稲田大学の道場で稽古をしてみて、どんな感想をお持ちでいらっしゃいますか。
私はロンドンの道場で初段になりましたが、富木合気道の始祖である富木謙治先生が合気道に精進した早稲田大学の道場での稽古は、実践的な合気道を志して乱取試合を合気道に導入した先生の精神を体感させてもらっているようで、本当に嬉しく思っています。

ー イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドという4つの国で構成される連合王国としての英国にあって、ウェールズの最大の魅力はどこにあるとお考えになりますか。
何と言っても、ウェールズ語が今も話されていることではないでしょうか。その長く古い歴史の中で生き残ってきたウェールズ語が、一時は消滅の危機に瀕しながらも、その後、見事に復活して、日常的に使われるまでになると同時に、伝統的な言語として詩や歌などの芸術作品も生み出されています。ウェールズ語と英語が併存して使われているところに、ウェールズの懐の深さや歴史の重さといったものを痛感させられますし、それこそがウェールズの最大の魅力なのではないかと考えています。

ー どうも、ありがとうございました。



“『不思議の国ウェールズ古城街道』で旅行会社による視察ツアー”
<前半>


日本旅行業協会(JATA)による「ヨーロッパの美しい街道20選」に認定された「不思議の国ウェールズ古城街道」「イングランド田園街道(ラグビーの聖地カーディフ[ウェールズ]からラグビー[イングランド]への道)」の2街道を対象とする現地視察ツアーが、6月3日から9日までの7日間の日程で実施されました。ツアーには、主要旅行会社のヨーロッパツアー造成担当者とJATAアウトバウンド促進協議会・ヨーロッパ担当の7人が参加しています。“Wales Now”では、今号と次号の2回にわたり、現地視察ツアーで訪れたエリアの多様で奥深い魅力を紹介します。


『不思議の国のアリス』の故郷スランドゥドゥノから
ヨーロッパの美しい村30選『コンウィ』


初日の宿泊はリバーサイドのお洒落なスパホテル

コンウィからスタートしたツアーは、コンウィ川に沿って、渓流が交錯する緑の森林やスレート鉱山地帯の荒々しく野性味あふれるスレートの山々を経て、一気に広がるコンウィ川河口の干満差13メートルという遠浅の絶景を臨むポートメイリオンへ。さらに、ポーツマドッグから北上して終点のカナーヴォン城まで、ウェルシュ・ハイランド鉄道の列車による旅を続け、ウィリアム王子とキャサリン妃が新婚時代を過ごしたアングルシー島へ。スノードニア国立公園をぐるりと囲んだ古城街道を南下した後、北上するルートを辿ったツアーは、盛り沢山の充実した内容です。ウェールズに到着した初日の宿泊先は、コンウィ川の対岸からコンウィ城の美しい遠景を終日楽しめるリバーサイドのお洒落なスパホテル“Quay Hotel & Spa”(www.quayhotel.co.uk)でした。

「行きたい世界の旅行先」で第4位に

『不思議の国のアリス』の故郷・スランドゥドゥノ(Llanduduno)では、アリスに登場する様々なキャラクターたちが、街のあちこちで出迎えてくれました。
トラムを使ってグレート・オームの丘を昇り、途中めったにお目にかかれない野生のカモシカにも遭遇。丘の上のカフェ・サミット(Cafe Summit)では、“Wales Now”にも登場したローニーおじさんに地ビールをごちそうになり、頂上からスランドゥドゥノの街を見下ろしながら、アリスの家族と『不思議の国のアリス』の著者ルイス・キャロル達がホリディを過ごした時代から続く街並みに、思わず溜め息をつきました。ロンリー・プラネット社が「2017年に行きたい世界の旅行先」の第4位に選んだのが、ヴィクトリア時代からの完璧な美しさを保つスランドゥドゥノというのも納得できる素敵な海辺のリゾートでした。

スランドゥドゥノから、車で15分ほどのコンウィへ。
3カ所の門を持つコンウィ城の1.2kmに及ぶ城壁に21も聳える塔中にすっぽり隠れたコンウィは、おとぎの国の箱庭のような街です。コンウィは中世時代の遺跡としてヨーロッパでも最も当時のままの姿が残され、タイム・スリップしたかのような世界が味わえます。14世紀に建てられた商人の住居や、大富豪の商人だったロバート・ウィンが建てたプラース・マウルは、英国で最も保存状態の良いエリザベス朝の都市住宅。コンウィ城のつり橋と通行料金所も見どころです。トーマス・テルフォードという有名な建築家が1821年から1826年にかけて造ったもので、中世建築への敬意と畏怖を示すかのようにコンウィ城へと続いています。コンウィ村では、「バラベリーズ(Baravelli's)」という高級手作りチョコレート工房に立ち寄りました。この工房は昨年、ウェールズ特集を掲載した『クレアトラベラーズ』でも紹介されていて、高品質でお洒落なチョコレートに魅せられて、ついつい長居してしまいました。

そして、ここで、サプライズが!!!

村を挙げて現地視察ツアーの一行を迎えるために、村中に沢山の日章旗とレッドドラゴンをあしらうウェールズ国旗が掲揚されていました。その圧巻の光景には、ツアーに参加した一同も、驚きを禁じえませんでした。

宿泊ホテルのレストランでの晩餐会には、スランドゥドゥノの若き貴族であるモスティン卿もサプライズ参加。先祖から代々受け継いできた「モスティンの館(Mostyn Hall)」を慈しみながら守り続けているモスティン卿は、「これからも観光資源としてコンウィを訪れる旅行者に紹介していきたい」と熱い思いを語ってくれました。


南下してボドナント・ガーデン(ナショナルトラスト)と
食の宝庫ボドナント・ウェルシュフードセンターへ

今回のツアーでメインとなるコンウィ城は、13世紀のイングランド王エドワード1世(在位1272年~1307年)がウェールズの反乱軍を征服するために造営した8つの城の一つです。北ウェールズの世界遺産であるカナーヴォン城、ハーレック城、ビューマリス城とともに、北ウェールズの「鉄の鎖(アイアン・リング)」を構成する重要な要塞で、中世軍事建築の傑作と言われています。
コンウィ城は8つの高い塔が外壁を囲み、タワーの頂上まではロープの手すりを使って登ります。上空からコンウィ城とコンウィ川と海を見渡すことができ、息をのむような絶景スポットでした。コンウィ城は、屋根がないことを除けば、内部の大部分が完全な状態で残存しています。

ナショナルトラストに登録された英国屈指の庭園
コンウィから15分ほどでボドナントガーデンへ到着。
ナショナルトラストに登録されている80エーカーもの広さを持ち、英国でも屈指の庭園です。今回は、キングサリ(ラバーナム)の満開に遭遇するという幸運に恵まれました。1年に1度、5月から6月初旬までの約2週間、満開となる黄金色の花のアーチが楽しめるシーズンに訪れることができたのです。
視察ツアーの行程で短い滞在時間でしたが、エネルギッシュなツアー参加者の皆さんにとっては、木々や花々の中、庭園の中を駆け回りながらの撮影タイム。ベストシーズンは大勢の人で賑わうため、朝一番での入館なら、それぞれの意のままに写真を撮ることもでき、インスタ映えのショット撮影を楽しめます。ただ、ラバーナムに遭遇できるシーズンは、バラには少し早すぎましたけれども、ラバーナムが散り、緑のトンネルになる頃には、ひな壇式の庭園にはバラが満開となり、バラのカーテンと絨毯を楽しめる季節もやってきます。ボドナントガーデンは年間を通じてオープンしていて、四季を通じて様々な花々を楽しめ、ガーデン好きにはたまらない花の楽園と言えるでしょう。

そして、グルメ好きをうならせる地元の食材と飲み物の宝庫「ウェルシュ・ボドナント・フードセンター」へ。ガーデンから車で5分ほどのセンターは、北ウェールズの産品が8割近くを占める食の宝箱では、お土産の購入や試食を心ゆくまで楽しめます。ナチュラルでシックなヘイレストランは、ロイヤルファミリーにも人気のスポット。2階に併設された新しいキッチンは「クッカリー・スクール」と呼ばれ、1人や2人の個人客から、最大12人のグループまで、希望の食材やメニューで、地元の素敵なシェフによる直々の料理教室を体験できます。新鮮なミルクやチーズ、バターも絶品で、ここでしか味わえない新鮮なクリーミーで体験したことのない美味しさの品々は、出来立てならではの楽しみです。
ランチの場所は、「カエリン・ホール(Caerhun Hall)」という近々オープン予定のホテルです。北ウェールズで今後、お洒落な滞在先として欠かせない5つ星を目指す古い館を改築したホテルのダイニングルームで、初めてのゲストとして、英国らしいサンドイッチ&スコーンをバスケットの中に詰め込んだピクニックランチを味わいました。ホテルのガーデンは広大で、古城街道から少し入っただけなのに、静寂につつまれた隠れ家的な滞在先となりそうです。
〈「カエリン・ホール」 https://www.caerhunhall.co.uk〉

(※次号に続く)

|NEWS|

◎ウェールズ国立博物館で9月9日まで特別展
“KIZUNA JAPAN WALES DESIGN=今・昔 日本のアート&デザイン”

 ウェールズの首都・カーディフにあるウェールズ国立博物館で9月9日まで、特別展「今・昔 日本のアート&デザイン」(英文テーマ:KIZUNA JAPAN WALES DESIGN)が開催されています。
 日本の文化庁と国立歴史民俗博物館、ウェールズ国立博物館の主催による特別展は、日本の美術とデザインについて歴史的な背景を探ることを目的としており、特に、日本美術のうち「工芸」の重要性や日本のデザインにおける江戸時代からの継続性、日本・ヨーロッパ間の交流に焦点を当てています。展示作品は、縄文時代から現代にかけての絵画や工芸品、ポスターに加えてプロダクトデザインなど、日本側から96件、ウェールズ側から約60点が出品されています。

 文化庁によると、今回の特別展は、国立歴史民俗博物館とウェールズ国立博物館による英国を中心とした在外の日本美術に関する共同調査研究の成果を受けて実現したものです。
 文化庁の主催による海外展として、英国での開催はこれが5回目、ウェールズでは初めての開催となります。
 文化庁主催の海外展は、国宝や重要文化財など日本の優れた文化財を海外で発信し、外国での日本文化への理解増進を図ると同時に、国内外の美術館・博物館等と協力して展覧会を開催することを通じ、共同研究や交流などの成果を発表し、海外との橋渡しとなる日本の学芸員の資質向上と海外における日本美術研究の推進に資することを目指して実施されています。
 日本の芸術とデザインがヨーロッパに紹介されたのは16世紀まで遡り、チャーク城の城主でイギリス東インド会社の設立者の一人だったトマス・ミドルトン卿が400年前に、素晴らしい漆の洋櫃を持ち帰りました。この漆の洋櫃は、今回の特別展での必見作品と一つです。この時から、ウェールズと日本は時代を超えて交流を深めてきており、特別展の英文テーマにある“KIZUNA(絆)”は今もなお、力強く続いているのです。

編集後記

観光地としてのウェールズを「街道」というテーマで掘り下げようという旅行業界の試みは、日本ではまだあまり知られていないコンウィやスランドゥドゥノといった北ウェールズの珠玉とも言うべき素材に改めて光を当てて、「異郷」とも称されるウェールズの独自の魅力を引き出すことが期待されます。

次号は7月13日に発行予定です。お楽しみに!

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