ウェールズと日本を繋ぐ濃密な人生模様の物語|Wales Now Vol.42

発行日:2018. 6. 15

ウェールズのリアルタイムな情報を隔週でお届けします。


“日本と同じ「人々の温かさ」こそ、最も大きなウェールズの魅力”


日本ウェールズ協会(St. David's Society)の創設メンバーで、1962年に日本人の男性と結婚して以来、既に日本在住期間も半世紀以上に及ぶという岩田ローズさん。英国で教師を務めていた20代前半に、夏休みを利用して欧州やアジアの各国を回る旅の途中で日本に立ち寄り、そのまま永住することになったローズさんに日本とウェールズへの思いを語っていただきました。

岩田ローズさん

岩田ローズさん

ー ローズさんと日本との巡り会いを教えていただけますか。
大学を卒業してウェールズで小学校の先生を務めている時に、夏休みを利用して同僚女性の友人と世界一周の旅に出て、たまたま立ち寄った日本を大変に気に入ってしまい、幸いに職を得ることもできたので、そのまま日本に住むことになりました。それが1961年のことで、英国から船でドーバー海峡を渡り、フランスやスペイン、イタリアなどを回った後、電車とバスを乗り継いでインドまで行き、インドからは船に乗ってアジア各国を周りながら、神戸の港で下船しました。日本の町並みはすごくきれいで、日本人の皆さんもとても親切だったので、すっかり日本が好きになってしまったのです。

ー 年齢の話になって、恐縮ですけれども、当時、ローズさんは何歳でいらっしゃったのでしょうか。
英国で教師として3年ほど勤務していましたから、23歳でした。英国の大学は3年間ですけれども、3年生の時にはインターンシップのような形で、実際に教壇に立って教えていました。日本へ入国する時には、駐日英国大使館に登録手続きをしていて、教師の資格を持っていることも分かりますから、大使館を通じてインターナショナルスクールの先生を募集していた清泉女子大学で職を得ることになりました。そのころ、日本ではイギリス英語を教えられる先生の需要が大きかったのですが、米国人の先生に比べて英国人の先生は少なく、圧倒的に足りないという事情もあったようです。観光目的での来日でしたけれども、フルタイムの仕事が確保されていたので、直ぐにワーキングビザを取ることもできました。清泉女子大学のインターナショナルスクールは外国人の子どもたちが中心でしたけれども、ネイティブの英国人教師ということで大学でも教えるようになったのです。

ー ご主人とは、日本にいらっしゃってから出会われたのですか。
そうです。カトリックの主人が目黒の教会に通っていて、五反田にキャンパスがあった清泉女子大学の教会と同じ地域の教会でしたから、その縁で出会うことになりました。大学の学長だったアルゼンチン人のシスターに仲人役のような仲立ちをしていただき、1962年に駐日英国大使館で結婚式を挙げました。戦前にも日本人外交官が英国人女性と結婚するというケースはあったようですが、当時の大使館関係者の方によると、戦後に日本人男性と結婚した英国人女性は私が初めてということでした。式を挙げる何週間も前から、大使館の中に二人が結婚する告知が掲示され、「結婚に反対する人は申し出なさい」というようなことも書かれていたようですが、もちろん、反対する人などはいらっしゃいませんでしたから、無事、戦後初めての大使館での結婚式を挙げることができたのです。

お二人のツーショット

運命的な出会いで結ばれたお二人の懐かしいツーショット

ー 日本で半世紀以上も暮らされているわけですが、ローズさんの目には日本という国はどのように映ってきているのでしょうか。
日本人の考え方や感性は、英国人に近いものがあると感じています。同じ島国ということもあるのかもしれませんけれども、日本と英国は似ているのではないでしょうか。例えば、多民族国家のアメリカの場合、最初から誰ともフランクに話をしたり、親しい感じで触れ合うことが多いようですけれども、日本や英国の場合、最初は少しとっつきにくいかもしれません。でも、一定の付き合いを経て、壁を超えると、とても親しくなれるのが日本人と英国人の特性のような気がしています。清泉女子大学で職を得た当時は、まさか、こんなに長く日本に住むことになるとは思ってもいませんでしたけれども、主人との出会いが私の運命を決定づけたということになりそうです。

ー 結婚後にウェールズへ里帰りされたのでしょうか。
いいえ、当時は飛行機代が月給の何十倍というような時代でしたから、簡単にウェールズへ里帰りすることはできませんでした。ただ、主人がエールフランスに勤務していた時期があって、その時には、年に一度、世界一周の航空券が支給されたので、東京オリンピックの次の年の1965年に結婚してから初めてウェールズへ里帰りしました。でも、その後は、やはり、航空運賃が高い時代が続きましたから、ウェールズへの2度目の里帰りが実現したのは、1976年のことでした。

ローズさんと正彦さん

結婚間もない頃のローズさんと正彦さんの肖像画

ー 最近は、ウェールズに頻繁に行かれているのですか。
実は、1980年にウェールズに土地を買って、建築関係の仕事をしている義理の兄に家を建ててもらいました。200坪以上の土地を50万円で購入したのですが、当時、日本の友人などに「いくらだったの」と聞かれて「50万円」と答えると、「えっ、坪50万円!?」などと驚かれたものですけれども、坪どころか200坪以上で50万円だったのです。主人がリタイアしてからは、1年のうち夏の3カ月をウェールズで過ごしています。

ー ローズさんから日本の皆さんへウェールズの魅力を紹介していただけますか。
ウェールズの魅力は、人々の温かさに尽きるのではないかと思います。イギリスの場合、ご存知のように、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドという4つの国がありますけれども、日本では「イングランド=英国」と思われがちです。英国人と言っても、実は、イングリッシュ、ウェルシュ、スコティッシュ、アイリッシュという4つの民族の人々がいて、特に、ウェルシュは背格好も日本人に近かったり、人々も非常に温かくて、実際に訪れていただければ、とても良いところだと分かっていただけるでしょう。1970年代後半くらいに、初めて日本企業がウェールズに進出してから、数多くの日本企業がウェールズに拠点を置いていますけれども、例えば、工場長が従業員と一緒にお昼を食べるような日本の企業文化は、逆に、ウェールズの人たちに「日本人は自分たちと同じように温かい人々」という印象を強く与えてきているのではないでしょうか。日本の皆さんには、是非、ウェールズを訪れていただきたいと願っています。

ー どうも、ありがとうございました。

岩田ローズさんと夫の岩田正彦さん

岩田ローズさんと夫の岩田正彦さん


“「ディープな魅力」のウェールズ製品を発掘”


英国から全商品を直輸入して小売り・卸売り業務を行っている英国雑貨専門店「ブリティッシュ・ライフ」。文化・伝統を重んじ、長い歴史を持つ一方で、常に斬新な発想と動きで世界をリードしてきている英国の魅力を、雑貨という観点から日本に紹介してきている同社の犬山貴雄代表取締役にお話をお聞きしました。

犬山貴雄代表取締役

ブリティッシュ・ライフの犬山貴雄代表取締役

ー 「ブリティッシュ・ライフ」という会社について、ご説明いただけますか。
もともと1980年代の初めに私の父親が創業した会社で、当初は、重衣料や医療器具などを卸売りする輸入業を行っていましたが、その後、ビジネスを展開する中で徐々にネットワークも広がり、取り扱い品目に細かい雑貨も入ってくるようになりました。英国だけでなく、米国やカナダ、スペイン、フランス、イタリアなど様々な国の製品を扱っていましたけれども、最終的に英国の雑貨を専門に取り扱うようになったのです。

ー ご自身と英国とのご縁は、どういう経緯で生まれたのでしょうか。
父親が創業した会社に入社したのは1990年代の後半でしたが、入社前に英語を勉強するため、1年間語学留学したのが英国との最初のご縁ということになります。それまで、設計事務所で図面を引く仕事をしていましたから、仕事で英語を使うようなことはありませんでした。父親が会社を立ち上げる時にサポートしていただいた英国人の方の紹介で、語学学校が併設されていたスコットランドの大学で勉強した後、帰国して「国際テクノ有限会社(ブリティッシュ・ライフの前身)」に入社し、3年目くらいで完全に英国の雑貨に特化してビジネスを展開するようになりました。

ブリティッシュ・ライフのショーウィンドウ

東京・西日暮里にある「ブリティッシュ・ライフ」店舗のショーウィンドウ

ー 英国の製品に特化することを前提に、語学留学されたのですか。
そうです。「ブリティッシュ・ライフ」が卸売りから小売りへのシフトを始めた1980年代後半に、日本貿易振興機構(JETRO)の下部組織だった製品輸入促進協会(MIPRO)が池袋サンシャインシティのワールドインポートマートに設置していた外国製品の展示フロアへの出店を誘われ、その後、高田馬場の店舗を経て、現在の日暮里に移転しました。その間に、英国雑貨の取り扱いが徐々に拡大し、日本全国で英国の小物を取り扱いたいという小売店への卸業務と英国雑貨の小売業務を事業の中心にするという方向性が定まってきたと思います。

ラブスプーン

その起源は17世紀まで遡る
ウェールズのラブスプーン

ー 英国雑貨専門店となった当初からウェールズ製品を扱われていたのでしょうか。
ウェールズ製品を扱うようになったのは、2000年代に入ってからです。日本では、「英国=イングランド」と考えている人が多いようですが、私自身も英国に語学留学するまでは、英国がイングランド・ウェールズ・スコットランド・北アイルランドという4つの地域から構成される「連合王国」であるという認識を持っていませんでした。「ブリティッシュ・ライフ」に入社してから、品揃えの中にウェールズ製品がないことに気づき、2002〜2003年頃に初めてウェールズへ行きました。それ以来、10回ほどウェールズを訪問していますが、そうした中で出会ったのが、現在、取り扱っている「ラブスプーン」と「ウェルシュタータン」だったのです。

ー 「ラブスプーン」というのは、どういったものですか。

17世紀頃まで遡ると言われるウェールズの伝統的な習慣で、若い男性が好意を寄せる女性のために、「愛の証」として一本の木から彫り出してプレゼントするスプーンのことです。もともと、船乗りが長い航海の間に、流木などを拾ってスプーンを掘り出して、帰ってから女性に求愛する時に贈ったのが始まりと言われています。今は、誕生日や記念日など、様々なライフステージでの贈り物として重宝されているようです。大きな会社などではなく、職人の方が工房で受注制作する製品のため、現地では当初「こんなものが日本で売れるはずはない」と言われましたが、根強い人気商品となっています。

ー 日本では「タータンチェック」というと、スコットランドが有名ですけれども。
確かに「タータンチェック」はスコットランドが発祥地のようですけれども、ウェールズにも独自のタータンが存在しています。ウェールズはスコットランドとは異なる文化があり、タペストリーをベッドや壁にかけることで、家の中を温かく快適に維持する工夫をして暮らしてきたようです。ウール100%の英国製品として、「ウェルシュタータン」も人気商品になるだろうと思っています。

ウェルシュタータン

ウェールズでも脈々と受け継がれてきた独自の「タータンチェック」

ー 新商品の発掘などで年2回は英国を訪れているそうですが、ウェールズの魅力については、どのように感じていらっしゃいますか。
職人さんたちとお会いする機会が多いからかもしれませんが、ウェールズの皆さんは寡黙な方々が多いという印象を持っていますけれども、内に秘めた思いの熱さを感じさせてもらう機会も少なくありません。また、何よりも、今でもウェールズ語が話されており、そのウェールズ語に根差した地域文化の固有性なども、大きな魅力ではないでしょうか。そうした「ディープすぎる」くらいのウェールズならではの魅力が反映された製品をこれからもっと見つけ出して、日本の皆さんに紹介していくことができればと考えています。

ー どうも、ありがとうございました。

|NEWS|

◎主要旅行会社など対象に2つの街道で視察ツアー

 ウェールズ政府は英国政府観光庁との共催により、6月3日から9日までの7日間にわたって主要旅行会社とランドオペレーターのツアー造成スペシャリストを対象とする街道視察ツアーを実施しました。
視察ツアーが実施されたのは、日本旅行業協会(JATA)が2017年に選定した「ヨーロッパの美しい街道・道20選」に入った「不思議の国ウェールズ古城街道」と「イングランドの田園街道」の該当部分で、ウェールズでの視察ツアーは、2015年に「ヨーロッパの美しい村30選」に名前を連ねたコンウィに続き、今回が2回目でした。
 ツアーでは、コンウィ・カナーヴォン・ビューマリス城など代表的な世界遺産の古城をはじめ、ハイランド鉄道、ラバーナム満開のボドナントガーデン、スレートの山岳地帯をスリリングに滑走する高速空中アトラクション“ZIP TAITAN”など、年代を問わず大自然を満喫する体験型旅行に相応しい素材を視察しています。さらに、ウェールズの北と南にある2つの街道を50分でつなぐ空の旅、アングルシー島からカーディフまでを組み込んだ新しい切り口でのルートも体験してもらうなど、充実したプログラムとなりました。
 次号では、美しい現地写真の数々とともに、今回の視察ツアーを詳報します。


◎世界一周ヨットレースがカーディフを出航

 昨年10月にスペインのアリカンテからスタートした「2017-18年 ボルボ・オーシャンレース」で第10レグの起点となるカーディフから、同レースに参加する各チームのヨットが6月10日、スウェーデンのヨーテボリに向けて出航しました。
 ボルボ・オーシャンレースは、単独無寄港世界一周の「ヴァンデグローブ」と並ぶ最高峰レースとして知られ、11を数えるレグ(区間)ごとのポイントなどにより、得点を競い合うヨットレースです。11レグを合わせた航行距離は過去最長となる8万キロにも及び、クルーたちは9カ月もの時間をかけて地球2周分の海を走破して雌雄を決します。
 「スエズ運河もパナマ運河もなかった時代の航海に挑戦したい」という冒険心から1970年代に生まれたと言われる世界一周ヨットレースは、文字通り、地球規模での関心を集める一大イベントとなりました。
 最終の第11レグで起点となるヨーテボリからは6月21日にフランスのアークへ向けて出航する予定で、リオデジャネイロ五輪の金メダルも獲得したアメリカズカップ優勝艇も参加しているレースの行方が注目されます。

編集後記

ウェールズと日本を繋ぐ人々の思いは、それぞれの生き方を色濃く映し出すものであることは言うまでもありませんが、戦後初めて日本人男性と結婚したウェールズ人女性の人生模様は、国と国との関係を軽やかに超越する個人同士の繋がりが如何に尊いものか、教えてくれているようです。

次号は7月2日に発行予定です。お楽しみに!

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